スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

腕輪

☆あらすじ

沙羅を育ててくれた老婆
彼女は死の直前で、一つの腕輪を渡し、沙羅の生い立ちを語り始める。


腕輪

「・・・これは・・・」
 震える手で、それを受け取った。
 それが何かすぐに解った・・・何を意味するのかも。
 だけど、それを受け入れたくなかったのだ。
 老婆は無言で、微笑んだ。
 痩せた体、
 もうすぐ訪れるであろう死を前にして、出来る事はそれだけだ・・・そう悟っていたのだ。
「・・・あたいの・・・あたいのせいだったんだ」
 唇をかみ締めても、溢れて来る涙を沙羅(しゃら)は止められなかった。
「・・・違うよ」
「違うもんか!!」
 優しく制止しようとした老婆の言葉を強く否定する。
 沙羅は手に置かれた腕輪を、苦い表情で握り締めた。
 細かい装飾がされている・・・そして、この国で知らぬものは居ない印が刻み込まれていた。
「赦空導王家の紋章」
 何故、ここにある?そして、今、自分に渡される?
 答えは一つしかないだろう。
「かあさん・・・あんたを殺したのは、あたいだ」
 項垂れた、どん底の中で、思わず、そんな言葉が漏れた。
「あたいが、居なかったら、こんな風に隠れて生きる必要なんてなかったのに・・・もっと自由に生きられたのに」
 悔しくて、悔しくて、ドロドロとしたものが胸の中をかき乱しているのを感じる。
「・・・こんな風に死んで行く必要だって無かったのに・・・」
 老婆は無言で首をふる。
 そして、懐かしそうに目を細めた。
「あたしがね・・・あんたを育てたのは半分、罪滅ぼしだと思っていたんだよ」
 老婆はかつて自分が李苑(りえん)という、側室の乳母であった事を話し始めた。
 今となっては面影も無い姿だが、本来、相当の教養のある女性だったのだろう。
「とても可愛らしい双子の姉弟だった・・・その子を自分が育てる事が出来る・・・本当にかけがえの無い時間だったよ」
 しかし、長くは続かなかったのだ。
 正室の妃の親族にあたる男に引き渡される事になったのだ。
「あんた達が冷遇されることは解りきった事だった、その男は双子であることを知らなかったのさ・・・だから」
 そこまで言いかけて、老婆は言葉を詰まらせた。
「・・・だから・・・」
 沙羅は目を伏せて、その意味を汲み取った。
「弟だけを引き渡して、かあさんはあたいを連れて逃げた・・・そうなんだろ?」
 老婆の目から涙が溢れた。そのやせ細った手を握り沙羅はただ、謝る事しか出来なかった。
「・・・だけど、あたいは、かあさんの子供で居られてよかった」
「しゃら・・・」
 老婆はかすれかすれの声で言葉を続ける・・・大きく見開かれた目だけは、その衰えた体とは不釣合いなほど、精気に満ちていた。
「決して、自分を見失ったらいけないよ・・・お前は生まれたときから王家という荷を背負っている、だけど」
 ひとつ大きく息をはく。
「お前は、お前だ・・・あたしがあんたを一人の娘として可愛がったように、いつか誰かがあんたを・・・」
 言いかけた言葉は最後まで言われる事は無かった。
「・・・かあさん?」
 信じられなかった、受け入れる事なんて、到底できない。
 しばらく呆然とした後、声を出して泣いた。

「許せない」
 手に握られた腕輪を顔を歪ませて見つめ、床に叩き付けた。
「こんなものがあるから、かあさんは!!」
 王家はずっと内乱が絶えていない・・・その戦の費用はどこからくるのか。
 国民の貧困は、回復はおろか、留まる事すらない、自分達の暮らしが決して、特別貧しいというわけではない事を沙羅は知っていた。
「・・・あたいが赦空導を滅ぼしてやる」
床に転がる腕輪が、まるで国そのもののように見えた。
恨めしい冷めた目で、それを見て、沙羅はそう決意したのだ。
スポンサーサイト

地下牢獄

☆あらすじ

仲間達からの裏切りにあい、逃げ場の無い地下へ逃げていく沙羅、
その最下階は、囚人を拷問にかける、牢獄部屋だった。
(一部に暴力表現あり、苦手な方はお気をつけください)


地下牢獄


「あの女・・・どうする?」
 ふと、そんな言葉を壁越しに聞いた。思わず、気配を殺して、その会話に耳を傾けた。
「さあ、どうしようかね」
 壁の向こうには屈強な男達・・・それも何十人もの数だった。
 王族に謀反を起こした者達
 そして、自分と志を同じくもつ、仲間だと思っていた人間達だった。
「王家に捨てられた姫なんて、社会の変革にはよい存在だとは思ったんだけどな」
 一人の男がそうつぶやき、言葉を続ける
「だけど、あいつは危険すぎる、結局、あいつが権力を握りかねないからな」
「それじゃあ、困るな」
 他の男がそれに言葉を返した。
「あれはただの手駒だ、これ以上目立つような動きをしてきた時は」
「・・・殺すのかい?あたいを」
 冷ややかな笑いを浮かべて、沙羅はそう言い放った。
 静かに歩み寄ってくる、話していた男に向かって
「あたいはさ・・・これでも、あんた達の役に立ってきたつもりだったんだぜ」
 細い体格に合う、やや細身の槍を持ち直すのと、振り下ろすのはほぼ、同時のように一瞬の事だった。
「ギャッ!!」
 短い叫びと共に、男が倒れた。
 自分が何をされたのかわからない、それくらい鮮やかな一撃・・・そして死だ。
「腐ってるのは王族だけじゃないらしい」
 肉塊と化したそれを見つめて、沙羅はつぶやいた。
 その男の比にもならないほどの、どよめきがまわりから起こる。
 掴みかかる?そんな生易しい表現ではない、
 この場で殴り殺されかけない、そんな腕がのびてきた。
 沙羅がいくら武芸に優れているとはいえ、武器を手にした男達に勝てるわけがない。
 彼女なりに抵抗をしたつもりだったが、
 腕をひねり上げられ、地に膝をつくまで、時間はかかわらなかった。
「うっ・・・」
「馬鹿なヤツだな」
 そう言った男を、沙羅は苦痛の表情で見上げた。男は笑っていた。
「あたいは、口実に使われていたということか」
「まあな、改革に象徴は付き物だ、国が傾いた時に現れる英雄、あんたはその役にあう境遇だったからな」
「・・・だったら・・・」
 苦しい体勢から、搾り出すように沙羅は言う。
「なんで、あたいを裏切ったんだ」
「何故って?」
 男の表情に若干の変化があった、目に刃物の先のような鈍い光を宿し
 次の瞬間、顔の左側面に強い衝撃が走った。
 ガッ!!
 鈍い音、自分の頭蓋骨が砕けたのかと思った。
 男の剣の鞘が血に染まっていた、
 それに気づいたと同時に勢いよく噴出した即頭部の傷がこめかみをつたい、左目に入った。
「・・・っ!てめえ!!」
「何で、お前を裏切ったのかだと?・・・お前みたいなガキに誰が付いてゆくものか!」
 男は言葉を続ける。
「お前は王族の人間だ、俺達の敵と変わらねーんだよ!」
「!!」
 思わず、目を見開いた。
(・・・・なんだと!?)
 殴られた痛みよりも重いものが、沙羅を襲った。
「・・・あたいが・・・あいつらと同じだと・・・」
 気丈な彼女が、ここまで打ちひしがれている姿を、誰も見たことがない。
 まわりから、ニヤニヤと卑しい笑いがもれる。
「もう、城は陥落寸前だ」
 別の男が言った。
「ああ、もう、意気込む必要は無いな」
 鞘で殴った男が沙羅に目を落とし、不気味に笑った。
「なら、女一人殺る余裕ぐらい、あるだろうな」
 腕をひねり上げていた男が手を離す。
 力なく、ドサッと崩れ落ちた。
 沙羅はその言葉に反応せず、変わらず、項垂れているままだ。
「いつもの生意気な態度はどうした?」
 瀕死の獲物を弄ぶような口調、完全に見下した態度で、沙羅の表情を見るため、顔を近づけた。
「・・・馬鹿は」
 そう、沙羅はつぶやく。
 彼女の目から、以前のような前を見つめる輝いた光は完全に失っていた。
 しかし、
「馬鹿は、てめえの方だ!」
 そう叫んだのが先か、短剣を振り上げたのが先か、
 ガッ!!
 一瞬の出来事に、誰も解らなかった。
 短剣は男のこめかみに見事に刺さり、男は顔面から、地面に伏した。
 即死だ。
「いいか、お前ら」
 沙羅をその男の屍を踏みながら、槍を構え直す。
「そんなにあたいが憎いってんなら、掛かって来い、遊んでやる」
 そういうと、沙羅は男達に背を向けて、全力で逃げた。
 男達は、お互いに顔を見合わせた後、沙羅を追いかけ始めた。


 沙羅は、石を敷き詰めた、暗い螺旋階段を駆け下りてゆく。
 男達は、沙羅は外に逃げるものかと思ったが、迷う事も無く地下に降りていく姿に、あっけにとられた。
「あの女、馬鹿だな」
 誰かがそう呟いた。
 徐々に逃げ場が無くなってゆく、これだけの人数で取り囲めば、交わして、引き返すことなど不可能だ。
「はっ、はぁ・・・」
 息を切らしながら、沙羅は下っていった、最下層は囚人を入れる部屋だった。
 全体的に鉄は錆び、あちこちに苔が生えている。
 それが、使われていなかったからか、手入れされて居なかったからかはわからない。
 血の臭いか、錆びの臭いか・・・
 気分の悪くなるような醜悪な臭いを放ちながら、その監獄部屋は存在していた。
「ずいぶん趣味のいい部屋を選んだじゃねーか」
 行き止まりに立ち尽くした沙羅に、男の一人がそう言った。
「変な道具がいっぱいあるな・・・監獄というよりも、拷問という方が、あっているのか」
 沙羅はつぶやいた。
 男達が歩み寄ってくる、
「寄るな!!」
 沙羅は部屋の奥の壁まで逃げると、横にある取っ手を勢いよく下に引いた。
 ガシャン!!
 自分と男達の間に、鉄格子が落ちてきた、沙羅はさらに後ろに下がる。
 壁に完全に背が付いている状態、逃げ場を失った、獲物、そのものだ。
「へっ、最後の抵抗か」
 男の一人がそう言う。
「そうしたところでお前が追い詰められている事実には、変わらないんだがな」
 別の男がそう言って笑った。
「・・・そうかな?」
 沙羅は俯いて、笑った。
「お前らの後ろ・・・よく見てみろ」
 沙羅に言われ、男達が後ろを見る。
・・・なんと、沙羅との境目にある鉄格子と同様の物が後ろにも存在していた。
「さっき、同時に落ちてきたのか」
 沙羅のほうに興味をとられ、後ろには全く気づかなかった。
「このクズ共め!計算通りなんだよ!!」
 勝ち誇った様子で、男達をみると沙羅は高笑いをした。
「さっき、あたい一人で別行動をしていたのはこれを調べていたからなんだ!」
 そう言って沙羅に、男達はどやし始める。
「お前とて、同じ状況じゃないか」
「格子を戻せ、殴りごろしてやる!!」
 ピクッと沙羅は反応した。
「同じだと?」
 沙羅は押し殺そうとしても、笑いが抑えられなかった。
「あんたらの頭上、よく見てみろよ」
 後ろの状況にも気づかなかった奴らに、上を見る余裕などなかっただろう。
 ソレの存在に気づいたとき、男達は初めて、青ざめた表情を浮かべた。
「ここは拷問部屋のようだと言ったばかりだが・・・」
 沙羅は言葉を続ける
「あまり生かすようには考えて居ないようだな、まるで処刑場みたいだ」
 男達の頭上には1メーターはある、太い鉄製の杭が幾つも、ツララのように下がっている。
 その天井は衝撃に揺れ、一本の鎖で、本来の天井と繋がっているだけだった。
 鎖の先端は片方は頭上の剣山のような天井に、
 天井を通り、もう一つの先端は、先ほど沙羅が引いた取っ手のすぐ横に存在していた。
 つまり、あたいがこの鎖を壊せば、その天井があんたらに落ちてくる・・・そういう仕組みだ」
 沙羅は皮肉を込めてそう言った。
 男達は、その事実を受け入れられないというように、どよめく。
 今更、助けるつもりなど毛頭ない、しかし、不思議でならない事が一つあった。
「どうした?何故、誰も命乞いをしない?」
 沙羅は不思議そうに、男達を見た。
 男達は沙羅を、それまで以上に腐ったもののように見つめていた。
「お前は・・・やはり、同じだな・・・奴らと」
 奴らが誰を意味しているか、すぐに解った。
「・・・同じだって?」
 解っているからこそ、余計に憎かった。
「お前達は、国民を人として、見ることは決してない・・・苦しもうが、死のうが、他人事だ」
 最後に病床で臥せって死んで行った、自分の育ての母親の姿が浮かぶ。
「自分の領土さえ増えれば、楽に暮らしていけるからな、振り回される方の事など、どうでもいいんだ」
「・・・だから?」
 沙羅は半分、自分に言うような口調で、言葉を発した。
「あたいに命は請わないと・・・あたいが、あいつらと同じだから・・・」
 男達は無言で、沙羅を見た。
 死を目前にして、だが恐れる表情は誰からも無かった。
(こいつに救われるくらいなら)
 そんな色が見て取れた。
「・・・ああ、解ったよ」
 かつてこれほどの絶望があっただろうか、落ち込みすぎると、笑いが浮かぶらしい。
「なら、最後まで演じてやるよ・・・暴君をさ」
 沙羅はそういうと、槍で鎖を叩ききった。
 彼らの表情を沙羅は見ることが出来なかった。


・・・さぁ・・・
 死臭の漂うその空間で、沙羅はしばらく途方に暮れた。
 自分の目的、手中にあったもの・・・すべてが失われた事を実感した時、空しさがこみ上げてきた。
(何をするつもりだったのだろう?)
 王を倒し、国を手に入れる・・・そのつもりだった。
「ならば、会ってみようか?」
 呟いた・・・先々代は自分の父が、
 それを倒し、同じ腹から生まれた、父親違いの妹が王になり。
 その妹が病に伏してからは、若干13歳の末の弟が王になったらしい。
 弟か・・・
 育ての母親からは双子の弟が居ると聞いていた。
 だが、その子は小さい頃に事故に見せかけて殺されたと後に、風の噂で聞いていた。
「・・・似ているのかな」
 もし、それが目の前に現れたら、殴ってやりたい。
 自分とはまるで別の人生を歩んだ自分の半身を
・・・そして再会せずに先に死んでしまった事が憎くて仕方がなかった。
 沙羅はフラフラと王室へ歩み始めていた。

 完

豺狼 一章、鬼眼

あらすじ

鬼に左目を支配され、忌み嫌われて生きている少年と
王に忠誠を尽くしていたにも関わらず、裏切られ、
狼の様に生きている男との出会いから別れの話
(一部に暴力表現あり、苦手な方はお気をつけください)


豺狼

「人間なんて、ろくなもんじゃねえ」
 ・・・そう呟いた。
 彼の心の中で、幾度と無く吐き捨てた言葉だ。
 口の中がザラザラする、息をしたら、共に砂が入ったようだ。
 砂塵の大地、今日は特に風が強い
”そういうなよ”
 彼から、別の声が聞こえた
 まだ、六つか七つの揚華(ようか)とは明らかに違う声、もっと、耳障りで枯れた声だ。
”お前だって、その一人なんだぜ”
 弱り果てた揚華とは、対称的な、陽気な口調
 その声は、揚華の左目から発せられた言葉だった。
「・・・お前に、言われたく・・・ねえよ」
 逆撫でされるような不快感に襲われたが、もはや自分には怒る気力も残っていない。
 遊牧民が不要になり、捨てていったであろう、無数のゴミの中、
 決してそれで暖を取れるわけがない状況で、それでも揚華は、ボロ布を身に繰り寄せている。
 まわりは一面の砂漠だ、砂埃が混じる冷たい強い風が、揚華の体力を奪う。
 先ほどまで、まわりは何も見えない、漆黒の世界だったが、次第に群青に変わっていく。
 揚華は、目を細め、布を頭から深く被った。
 右の子供らしい目とは、不釣合いな、赤いおぞましい左の目、
 揚華の物ではあるが、単独で意思をもつ・・・”鬼”だ。
 極力、硬く閉じるようにして、さらにボサボサの黒髪で必死で隠すよう努めている。
 物心が付く頃、両親に捨てられた事に始まり。
 揚華にとって、それは、すべての元凶だった。
 拾ってくれた人間は居た・・・だけど、揚華が鬼に憑かれている事に気づいた、とたん、
 手の平を返したように、忌み、嫌われ捨てられた。
 馴れる様、努力したが、その心の中で、割り切れないものが彼を襲う。
 完治していない切り傷の上を、ふたたび傷を入れるようだ。
「・・・いっそ事」
 誰とも関わらず生きていければ、揚華はそう思う。
 自分が誰にも頼らず、一人で生きてゆければ・・・だが、そんな事、出来るはずもない事だ。
 空を見上げると、頭上を複数の鴉が鳴きながら、回るように飛んでいた。
 まるで、揚華の死を待っているかのように。
 奴らは自分が死ぬのを待って、食らうつもりなのだろう。
 ・・・俺は、鴉以下だ。
 自分の周りにあるゴミ、これらと自分は、幾分の価値も違わないように思う。
「・・・疲れたな」
 その言葉を口にした後、全身の力が抜け、ふと、意識が遠のいて行くのが解った。
 次に目覚めなければ、自分はカラスの餌になったのだろう・・・むしろ、そうだった方がいいかもしれない。
 この空腹や虚無感から、もう解放されたいと・・・

「・・・・!」
 眠ってから、どれくらいだったろう・・・いや、すぐ、だったかもしれない。
 顔を舐める、感触がした。あと、荒い息。
 ふと見ると、目の前に犬が居た。
(鴉じゃなくて、犬の餌になるのか)
 一瞬、そう思ったが、すぐにそうではない事に気がついた。
 それなりに強そうな犬種、そして若い犬だ。
 しかし、全身、傷があり、皮膚はただれ、打ち付けられた痕がある。
 何よりも、絶望したような、輝きの無い瞳が、実際よりもずっと老いているような雰囲気にさせていた。
「・・・お前」
 その惨めな姿に思わず、言葉を詰まらせた。
 思わず手を伸ばした・・・そんな時だった。

「誰だ、てめえ」
 低い声がして、近づいてくる足跡
 見れば、ゴアゴアな毛皮を身に着けた、大男だ。
「!!」
 目を合せて、思わず身震いをした
 獰猛な目つき、こちらの方がよほど野犬だ
 まったく、手入れしている様子のない、髪や髭
 真っ当な生活をしているものではない事が一目で解った。
「突然、走っていくから何かと思えば」
 男は揚華を見て、つまらなそうに言う。
「餓死、直前のガキなんて、何の役にもなりゃしねえ」
 揚華はただ項垂れた・・・自分にはもう何をする気力も残ってない。
 ・・・そんな時だった。
「居たぞ!!あいつだ」
 追いかけてくる、複数の男達。
 この大男ほどではないが、皆、屈強そうだ。
 盗賊か何かなのだろう、
「よくも・・・!」
 ギリギリと歯を鳴らし、忌まわしそうに大男に食ってかかる。
「大人しく金をよこさねーからだ」
 大男は言った。全く動じた様子は無い。
 それとは対照的に、犬はウーウーと、男達に威嚇をし始めた。
 こんな姿なのに、主人に対して、忠誠しているのか!?
 揚華は、その事に驚いた。
 盗賊の一人が揚華の存在に気づいた。
「おい!ガキが紛れ込んでいるぞ」
「知るか、一緒に片付けちまえ!」
 この野犬男が自分を守るとは思えない・・・だけど、盗賊らが勝っても、自分は助からないだろう。
 逃げる気力も無かった、
 揚華はただ、この戦場を見守る事しか出来ないと感じた。
 大男を盗賊たちが取り囲み、大男に一斉に斬りかかって来た。
・・・砂塵の中、横たわっていて、何が見えるのか?
 いや、普通ならほとんど見る事など、できないだろう。
 しかし、揚華には鮮明に写った・・・見ているのは、そう、忌まわしい左目。
 盗賊の一人が剣を振り上げる。
 右脇の急所を見事につく攻撃だったが、大男は紙一重で交わし、相手の胴の前を剣先が横に走っていった。
 その瞬間、まわりに血しぶきが飛び、盗賊は崩れ落ちる。
 大男は、それに手ごたえを感じた様子も無く、次の剣を繰り出していた。
・・・慣れてるんだ。
 日常をこんな風に過ごしているのだろう。
 大人数なのにも関わらず、大男は全く押されている様子は無い。
 次々、襲い掛かる攻撃を交わして、斬り、交わして、斬り
 盗賊たちを次々に肉塊へ変えていく。
 だが
「うっ!」
 揚華は左目を強く抑えた。
 激痛と共に、常識的にはありえない速さで左目見開いて動いた。
 ピクピクと完全に別の生き物だ。
”来る!!”
 揚華の左目が叫んだ。
 大男がその、少年らしからぬ声に振り返り
 明らかに異形な左目を見て、ハッとした。
”右後方、弓兵だ!”
 一瞬、間を置き、左目は言う。
”今だ!剣をなぎ払え!!”
 大男はその方向に剣を向けると、まさにそのタイミングで弓が飛んできた。
 その通り、勢いよくなぎ払い、弓は地面に叩きつけられた。
「鬼眼か・・・」
 男が初めてニヤリと笑った。
 何か含むものがあるのか、不気味で思わず身震いした。
・・・だが、今はそんなもの、どうだっていい・・・ここを切り抜けたい。
「おい、ガキ」
 大男は揚華に、ぶっきらぼうに言った。
「弓兵は、あと何人居る?」
「・・・四人」
 左目で感じるものは、自分でも解る。
 それが、鬼であっても、自身の左目であるという、何よりの証だと思う。
「そいつらの動き、お前が伝えろ」
 大男はそう言った。
 揚華はそれに従うほかに選択は無かった。
・・・・ほどなく、その場所に居る人間は、揚華と大男のみになっていた。
 先ほど、たかっていたカラス達が、ギャアギャアと鳴きながら、肉塊を貪りあっていた。
 何も無ければ、ここで餌になっていたのは自分だっただろう。
「・・・嫌だ・・・」
 言葉がもれる、乾いた目からは何も出なかったが、言葉は震えていた。
「助けてくれ・・・・死にたくない」
「ほう?」
 大男は意外とばかりに一瞬、目を見開いたが、すぐに元の目つきに戻った。
「・・・いいだろう」
 すぐさま、背を向けて歩き出す
 揚華はそれを追いかけようと立ち上がるが、限界の体は言う事を聞かない。
 だが、大男には、そんなこと、どうでもいいようだ・・・徐々に姿が小さくなっていく。
 揚華は気力で追いかけて行った。

豺狼 二章、犬

 揚華が目覚めた時、そこは砂塵ではなかった。
 下は土だったが、屋根はある
 そういえば、おぼろながらに、男の家を見た気がする・・・そのあと力が抜けて
 そこから憶えていない。
 ゴン!
 額に衝撃が走った
「何をぼんやりしている」
 大男だ・・・投げられたものをみると、芋だった。
 衝動的に口に入れた、最後に物を食べてどれくらいになるだろう
 喉につまり咳き込んだ。
 中央の鍋で煮られている湯も少し飲んだ。
 とても食とは言えないものだったにせよ、なんとか落ち着いた揚華はその家をよく見回した
・・・今まで見た中でもっとも汚いものだった。
 そんな散乱した粗末な家に所々転がっている、
 高価な石や装飾品は、明らかに盗品だと確信できる。
「おい、こっちへ来い」
 そう言ったのは揚華にではなく犬にだ。
 よろよろと立った犬は主人の下へ歩みよって傍に座った。
 男は犬の頭を撫でながら言う。
「・・・実はな」
 それは揚華に向けられた言葉だったが、目は犬を見たままだ。
「さっきの芋は、こいつの餌だったんだ」
 ニヤリと笑う・・・先ほどの獰猛な目つきだ。
 揚華は嫌な予感がして思わず身構えた。
「ここに2人養う餌は無い・・・解るよな?」
 言い終わらないうちに、男は右に置いてあった鎌を振り上げ。
 傍にいた犬に振り下ろした。
「ヒッ!」
 思わず声にならない悲鳴が漏れた。
 犬の返り血が揚華にも飛んできて、一瞬、何もかも真っ白になる。
 どれくらいの間が過ぎたか解らない。
 は一言も発する事が無かった、即死だったのだろう。
「・・・・なんで」
 わなわなと肩が震えた。
「殺したんだよ・・・懐いてたじゃねーかよ」
「今、言った通りだ」
 男は何事も無かったように涼しげに言った。
「餌がない・・・あと、俺は犬は2頭、飼わねえんだ」
 男が笑いながら近づいてくる、足はすくんでいたが、揚華は悔しさをこらえ切れなかった。
「なら、なんで捨てないんだ・・・殺すなんて」
「ふん・・・」
 つまらなそうに鼻を鳴らした男は、次の瞬間、
 バン!
 揚華の腹を思い切り蹴飛ばした。
「ぐはぁ!」
 壁にぶつかり、うずくまる
「お前が、一番解ると思うんだがな」
 男は冷たく見下ろすと揚華の目の前に座った。
・・・壁と男に挟まれて、揚華には逃げ場がない。
 恐ろしかったが、揚華は目をそらさなかった。
「・・・その結末が、さっきのお前だ、弱って野垂れ死ぬ」
 薄ら笑いを浮かべた。
「お前の親の方がよほど酷いだろう」
 優しかった母の面影が過ぎった・・・酷いだと?
「違っ・・・」
「甘ったれてんじゃねー!」
 同時に左頬に強い衝撃が走った・・・拳だ。
 地面に叩き付けられる
・・・・うっ
 もはや立ち上がる気力もなかったが、揚華の頭は地面から浮いた。
 男が髪を掴んで持ち上げて居るのだ
「恩なんて思わなくていいぞ・・・犬を換えただけだからな」
 男は口元だけ笑った。
「お前の左目は役に立ちそうだ、これからよくしつけてやる」
「・・・この・・・豺狼が!!」
 声が震えていたが、折れたら何もかも捨てたもののような気がする。
 豺はやまいぬの事を言う、
 豺狼とは残酷で欲深い人。むごたらしいことをする人という意味だ。
 男は手を離し、揚華は床に顔から落ちた。
「どれだけ、強情なんだ」
 厭きれた風に言ってはいるが、顔は笑っている。
 その表情が揚華には憎くて仕方がなかった。

豺狼 三章、剣と傷

「豺狼」
 揚華は男をそう呼ぶ事にした。
 そのたびに、手加減無く弄られたが、揚華はやめようとしない。
 男は一切、自らを名乗らない・・・それが悪いんだ。
 揚華はそう思う。
 昼、夜問わず、理不尽な理由で、起き上がることもできないほど殴られた。
 自分はあの時死んだ犬の代わりなのだ。
・・・そう思うと、押さえ切れない惨めさと怒りを感じる。
 そんな頃・・・
 豺狼は揚華に一本の剣を投げてよこした。
「・・・・え?」
「お前は考えた事があるか?」
 豺狼は言葉を続ける
「ここにある金目の物、俺を殺せば、お前の物だ・・・そしたらお前は」
・・・・この生活から抜け出せるのか!?
 揚華の目の色が変わった。ここから逃げたい・・・しかし、逃げたところで
 何も無い揚華には生きていく事はできないだろう。
「その剣はくれてやる」
 男はニヤリと笑った。
「・・・・なんでこんな事」
「そんなことは自分で考えろ・・・いつでも命を狙っていい、だけどな」
「!!」
 目に凄みを増した豺狼に揚華はゾッ!とした。
・・・殺そうとしてもいい・・・だけど、失敗をしたらその時は逆に殺されるときだ。
「解っているみたいだな・・・揚華」
 豺狼は揚華に剣を向けた、遥かに大きく長い剣だ。
「しつけてやると言っただろ・・・少なくともアイツ以上に働いてもらわねえとな」

 外に連れて行かれる。
 稽古だなんて、優しいものじゃない。
 最初に剣を弾き飛ばされたら、後は殴る蹴るの暴力だ。
・・・体中が痛い
 傷は以前にも増して増え、傷がうずいて、終わった後も眠る事さえ間々ならない。
 どうしていいか・・・どうしたら少しでも身を守れるか、
 豺狼を傷つけられるかで必死になったが、間を少し開けられる程度。
 結局は、怪我の上に怪我を増やすだけなのだ。
・・・このままじゃ本当に殺される。
 身が持たない・・・夜中に不意を付いた所で、今では返り討ちにされるだろう。
 逃げても死ぬしかなく、ここにいても死ぬ。
「おれは一体、どうすればいいんだ」
 そんな自問自答で、頭がおかしくなりそうだった。
プロフィール

風祭ともこ

Author:風祭ともこ

目次
更新
最新コメント
月別アーカイブ
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。