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六章 嘘 桃源郷

「ここに来ると、時間を忘れる」
 満足げに維邦は笑う。傍らに紅錦香を抱いて
 数日置きに、維邦は訪れる。
「維邦様・・・」
 微笑を浮かべた紅錦香だったが、ふと、視線をそらすと俯いた。
「・・・どうしたのだ?」
 維邦が不安そうに見つめる、このように塞ぎこむ彼女を、維邦は見たことが無い。
「言ってみよ」
「私は・・・」
 続きを言おうとするが、ぽろぽろと涙がこぼれだし続きを言えない。
「紅錦香」
「・・・・隠している事があるのです」
 涙をぬぐい、必死の面持ちで、彼女は維邦を見上げた。
「私の過去の話です」
 紅錦香は恐る恐る、懐から何かを取り出す。
「・・・これは!」
 維邦は、それを見てはっとした。
 ・・・・大きく、見事な真珠玉だ。
「こんな大きな玉は見たことがないぞ」
 ただならぬ事態だ・・・どうして、彼女が
「私の・・・一族の家宝なのです」
 ふるふると身を震わせている。
「そういえば、そなたはあの家の養女だったな」
「はい・・・私は、とある豪族の長の娘でしたが、幼い頃に一族すべて、皆殺しにされたのです」
「なんと・・・」
 紅錦香の形の良い唇が小刻みに動く・・・その声は震えていた。
「私は、せめて家宝を守りたくて・・・これだけを持って逃げました
 ・・・途中、あの方の父上に拾われて、養女となりました」
 なるほど・・・と維邦はうなづいた。
 これほどの美女が、あんな田舎者の娘で、ましてや養子などとは思えなかった。
「・・・この事を、あの男は・・・」
「知りません、家宝も隠しておりました」
 紅錦香は維邦の胸に顔を埋めた。
「貴方だからこそ、申し上げているのです」
 涙が伝う彼女の頬を、維邦は拭う
「・・・・これを維邦様に差し上げたいのです」
「!!」
 維邦の目の色が変わった。
「そんな大事なものを私に?」
「離れている時間が・・・」
 頬を赤く染める。
「仕方がないとは分かっていても寂しくて・・・本当はいつも一緒に居たい」
 維邦の頬を触る、顔はほんのすぐ先だ
「せめて、わたしの代わりとして傍に置いて欲しいのです・・・お慕いしております」
 二人は唇を重ねる・・・維邦は、彼女をベッドに倒した。


 玉はもちろん、あの時の桃の種だ。
 投げるふりをして、そっと袖に隠したのだ。

 自分の出生は、全く知らない。
”自分が実は、王族の姫で・・・”
 など、小さな頃に夢を膨らませていたりもしたが、今となってはそんな気もおきない
 大事な事は”今”
 自分には、道を開けると彼女は確信している。
 鴛鴦(えんおう)維邦の父は金に貪欲だと有名だ。
 維邦があのようなものを持っていれば、確実に欲しがるだろう。
 金によって築かれた親子なら、崩れるときも、また金だ。
 紅錦香はそう思っている。
 翌日、維邦を見送った紅錦香は、芝居を終えた役者のように
 どっと、本音を漏らす。
「疲れたわ・・・・さあ、どう出るかしら?」
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