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地下牢獄

☆あらすじ

仲間達からの裏切りにあい、逃げ場の無い地下へ逃げていく沙羅、
その最下階は、囚人を拷問にかける、牢獄部屋だった。
(一部に暴力表現あり、苦手な方はお気をつけください)


地下牢獄


「あの女・・・どうする?」
 ふと、そんな言葉を壁越しに聞いた。思わず、気配を殺して、その会話に耳を傾けた。
「さあ、どうしようかね」
 壁の向こうには屈強な男達・・・それも何十人もの数だった。
 王族に謀反を起こした者達
 そして、自分と志を同じくもつ、仲間だと思っていた人間達だった。
「王家に捨てられた姫なんて、社会の変革にはよい存在だとは思ったんだけどな」
 一人の男がそうつぶやき、言葉を続ける
「だけど、あいつは危険すぎる、結局、あいつが権力を握りかねないからな」
「それじゃあ、困るな」
 他の男がそれに言葉を返した。
「あれはただの手駒だ、これ以上目立つような動きをしてきた時は」
「・・・殺すのかい?あたいを」
 冷ややかな笑いを浮かべて、沙羅はそう言い放った。
 静かに歩み寄ってくる、話していた男に向かって
「あたいはさ・・・これでも、あんた達の役に立ってきたつもりだったんだぜ」
 細い体格に合う、やや細身の槍を持ち直すのと、振り下ろすのはほぼ、同時のように一瞬の事だった。
「ギャッ!!」
 短い叫びと共に、男が倒れた。
 自分が何をされたのかわからない、それくらい鮮やかな一撃・・・そして死だ。
「腐ってるのは王族だけじゃないらしい」
 肉塊と化したそれを見つめて、沙羅はつぶやいた。
 その男の比にもならないほどの、どよめきがまわりから起こる。
 掴みかかる?そんな生易しい表現ではない、
 この場で殴り殺されかけない、そんな腕がのびてきた。
 沙羅がいくら武芸に優れているとはいえ、武器を手にした男達に勝てるわけがない。
 彼女なりに抵抗をしたつもりだったが、
 腕をひねり上げられ、地に膝をつくまで、時間はかかわらなかった。
「うっ・・・」
「馬鹿なヤツだな」
 そう言った男を、沙羅は苦痛の表情で見上げた。男は笑っていた。
「あたいは、口実に使われていたということか」
「まあな、改革に象徴は付き物だ、国が傾いた時に現れる英雄、あんたはその役にあう境遇だったからな」
「・・・だったら・・・」
 苦しい体勢から、搾り出すように沙羅は言う。
「なんで、あたいを裏切ったんだ」
「何故って?」
 男の表情に若干の変化があった、目に刃物の先のような鈍い光を宿し
 次の瞬間、顔の左側面に強い衝撃が走った。
 ガッ!!
 鈍い音、自分の頭蓋骨が砕けたのかと思った。
 男の剣の鞘が血に染まっていた、
 それに気づいたと同時に勢いよく噴出した即頭部の傷がこめかみをつたい、左目に入った。
「・・・っ!てめえ!!」
「何で、お前を裏切ったのかだと?・・・お前みたいなガキに誰が付いてゆくものか!」
 男は言葉を続ける。
「お前は王族の人間だ、俺達の敵と変わらねーんだよ!」
「!!」
 思わず、目を見開いた。
(・・・・なんだと!?)
 殴られた痛みよりも重いものが、沙羅を襲った。
「・・・あたいが・・・あいつらと同じだと・・・」
 気丈な彼女が、ここまで打ちひしがれている姿を、誰も見たことがない。
 まわりから、ニヤニヤと卑しい笑いがもれる。
「もう、城は陥落寸前だ」
 別の男が言った。
「ああ、もう、意気込む必要は無いな」
 鞘で殴った男が沙羅に目を落とし、不気味に笑った。
「なら、女一人殺る余裕ぐらい、あるだろうな」
 腕をひねり上げていた男が手を離す。
 力なく、ドサッと崩れ落ちた。
 沙羅はその言葉に反応せず、変わらず、項垂れているままだ。
「いつもの生意気な態度はどうした?」
 瀕死の獲物を弄ぶような口調、完全に見下した態度で、沙羅の表情を見るため、顔を近づけた。
「・・・馬鹿は」
 そう、沙羅はつぶやく。
 彼女の目から、以前のような前を見つめる輝いた光は完全に失っていた。
 しかし、
「馬鹿は、てめえの方だ!」
 そう叫んだのが先か、短剣を振り上げたのが先か、
 ガッ!!
 一瞬の出来事に、誰も解らなかった。
 短剣は男のこめかみに見事に刺さり、男は顔面から、地面に伏した。
 即死だ。
「いいか、お前ら」
 沙羅をその男の屍を踏みながら、槍を構え直す。
「そんなにあたいが憎いってんなら、掛かって来い、遊んでやる」
 そういうと、沙羅は男達に背を向けて、全力で逃げた。
 男達は、お互いに顔を見合わせた後、沙羅を追いかけ始めた。


 沙羅は、石を敷き詰めた、暗い螺旋階段を駆け下りてゆく。
 男達は、沙羅は外に逃げるものかと思ったが、迷う事も無く地下に降りていく姿に、あっけにとられた。
「あの女、馬鹿だな」
 誰かがそう呟いた。
 徐々に逃げ場が無くなってゆく、これだけの人数で取り囲めば、交わして、引き返すことなど不可能だ。
「はっ、はぁ・・・」
 息を切らしながら、沙羅は下っていった、最下層は囚人を入れる部屋だった。
 全体的に鉄は錆び、あちこちに苔が生えている。
 それが、使われていなかったからか、手入れされて居なかったからかはわからない。
 血の臭いか、錆びの臭いか・・・
 気分の悪くなるような醜悪な臭いを放ちながら、その監獄部屋は存在していた。
「ずいぶん趣味のいい部屋を選んだじゃねーか」
 行き止まりに立ち尽くした沙羅に、男の一人がそう言った。
「変な道具がいっぱいあるな・・・監獄というよりも、拷問という方が、あっているのか」
 沙羅はつぶやいた。
 男達が歩み寄ってくる、
「寄るな!!」
 沙羅は部屋の奥の壁まで逃げると、横にある取っ手を勢いよく下に引いた。
 ガシャン!!
 自分と男達の間に、鉄格子が落ちてきた、沙羅はさらに後ろに下がる。
 壁に完全に背が付いている状態、逃げ場を失った、獲物、そのものだ。
「へっ、最後の抵抗か」
 男の一人がそう言う。
「そうしたところでお前が追い詰められている事実には、変わらないんだがな」
 別の男がそう言って笑った。
「・・・そうかな?」
 沙羅は俯いて、笑った。
「お前らの後ろ・・・よく見てみろ」
 沙羅に言われ、男達が後ろを見る。
・・・なんと、沙羅との境目にある鉄格子と同様の物が後ろにも存在していた。
「さっき、同時に落ちてきたのか」
 沙羅のほうに興味をとられ、後ろには全く気づかなかった。
「このクズ共め!計算通りなんだよ!!」
 勝ち誇った様子で、男達をみると沙羅は高笑いをした。
「さっき、あたい一人で別行動をしていたのはこれを調べていたからなんだ!」
 そう言って沙羅に、男達はどやし始める。
「お前とて、同じ状況じゃないか」
「格子を戻せ、殴りごろしてやる!!」
 ピクッと沙羅は反応した。
「同じだと?」
 沙羅は押し殺そうとしても、笑いが抑えられなかった。
「あんたらの頭上、よく見てみろよ」
 後ろの状況にも気づかなかった奴らに、上を見る余裕などなかっただろう。
 ソレの存在に気づいたとき、男達は初めて、青ざめた表情を浮かべた。
「ここは拷問部屋のようだと言ったばかりだが・・・」
 沙羅は言葉を続ける
「あまり生かすようには考えて居ないようだな、まるで処刑場みたいだ」
 男達の頭上には1メーターはある、太い鉄製の杭が幾つも、ツララのように下がっている。
 その天井は衝撃に揺れ、一本の鎖で、本来の天井と繋がっているだけだった。
 鎖の先端は片方は頭上の剣山のような天井に、
 天井を通り、もう一つの先端は、先ほど沙羅が引いた取っ手のすぐ横に存在していた。
 つまり、あたいがこの鎖を壊せば、その天井があんたらに落ちてくる・・・そういう仕組みだ」
 沙羅は皮肉を込めてそう言った。
 男達は、その事実を受け入れられないというように、どよめく。
 今更、助けるつもりなど毛頭ない、しかし、不思議でならない事が一つあった。
「どうした?何故、誰も命乞いをしない?」
 沙羅は不思議そうに、男達を見た。
 男達は沙羅を、それまで以上に腐ったもののように見つめていた。
「お前は・・・やはり、同じだな・・・奴らと」
 奴らが誰を意味しているか、すぐに解った。
「・・・同じだって?」
 解っているからこそ、余計に憎かった。
「お前達は、国民を人として、見ることは決してない・・・苦しもうが、死のうが、他人事だ」
 最後に病床で臥せって死んで行った、自分の育ての母親の姿が浮かぶ。
「自分の領土さえ増えれば、楽に暮らしていけるからな、振り回される方の事など、どうでもいいんだ」
「・・・だから?」
 沙羅は半分、自分に言うような口調で、言葉を発した。
「あたいに命は請わないと・・・あたいが、あいつらと同じだから・・・」
 男達は無言で、沙羅を見た。
 死を目前にして、だが恐れる表情は誰からも無かった。
(こいつに救われるくらいなら)
 そんな色が見て取れた。
「・・・ああ、解ったよ」
 かつてこれほどの絶望があっただろうか、落ち込みすぎると、笑いが浮かぶらしい。
「なら、最後まで演じてやるよ・・・暴君をさ」
 沙羅はそういうと、槍で鎖を叩ききった。
 彼らの表情を沙羅は見ることが出来なかった。


・・・さぁ・・・
 死臭の漂うその空間で、沙羅はしばらく途方に暮れた。
 自分の目的、手中にあったもの・・・すべてが失われた事を実感した時、空しさがこみ上げてきた。
(何をするつもりだったのだろう?)
 王を倒し、国を手に入れる・・・そのつもりだった。
「ならば、会ってみようか?」
 呟いた・・・先々代は自分の父が、
 それを倒し、同じ腹から生まれた、父親違いの妹が王になり。
 その妹が病に伏してからは、若干13歳の末の弟が王になったらしい。
 弟か・・・
 育ての母親からは双子の弟が居ると聞いていた。
 だが、その子は小さい頃に事故に見せかけて殺されたと後に、風の噂で聞いていた。
「・・・似ているのかな」
 もし、それが目の前に現れたら、殴ってやりたい。
 自分とはまるで別の人生を歩んだ自分の半身を
・・・そして再会せずに先に死んでしまった事が憎くて仕方がなかった。
 沙羅はフラフラと王室へ歩み始めていた。

 完
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