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二章 桃 桃源郷

 山奥へ谷川に沿って船を漕いで遡ってゆく、
「こんな所に人が住めるような場所なんてあるのかしら」
 どこまで行ったか分からないくらい上流で、とうとう不安そうに楊采がつぶやく。
 ・・・無理も無い。
 紅錦香自身、もうだいぶ前から言い出しそうだった。
 が、突如、桃の木だけが生え、桃の花が一面に咲き乱れる林が両岸に広がった。
「あ・・・・」
 桃の花の甘い香りする、ひらひらと舞い落ちる花弁や花粉がとても美しかった。
 船頭が船を止めると、そこには人が一人、やっと通れる道が続いていた。
 それなりの距離はあるのだが、まわりの桃色の景色に心を奪われ、決して、長くは感じなかった。
「・・・・なんと・・・」
 道の終わった場所に、小さな屋敷がある。
 中の庭には、特に見事な桃の木が、そして、その先には、対に存在する小さな滝がみえる
 ザァ・・・・という静かな滝の音が耳に心地よかった。
 特に絶景の場所なのだろう。
 屋敷は、その外観を損なわない白い壁、窓は木目の丸いまどに格子をはめたものだった
 部屋から見た景色も美しかろう。
「・・・・こんな理想郷のような場所があるんですね」
 楊采は頬を赤らめて言う。
 ・・・暢気なものね。
 最初こそ、心を奪われたものの、彼女の目はすでにその先の現実を直視していた。
 こんな場所に、ずっと居たら、退屈で死んでしまう。
 数日後の自分の姿をたやすく想像できた。
「一体、こんな屋敷、どうやって作ったのかしらね」
 ふと、そんな言葉が口に出た。楊采は、逃すまいとすかさず返事をする。
「そうですよね・・・木材を少しづつ船で運んできたのかしら」
 弾むような声、想像し、ワクワクとしている姿が、少女らしい。
「そうでしょうねぇ・・・」
「ですよね!維邦様は本当にお金持ちな方なんだわぁ」
 間違えは無かった。
 そうでなければ、こんな辺境の地に、豪華な別宅を作らない。
 さらに、女まではべらすなんて・・・
 ・・・・バカなんじゃないの?
 舌を出した。楊采が不思議そうに覗き込んだ。
「どうかしましたか?」
「・・・何でもないわ、それより」
 紅錦香は、庭を眺める楊采に背中を向ける。
「疲れたわ・・・少し休ませて頂戴」

 深い色合いの木目の廊下を渡ると、そのさきに、趣味のよい漆黒の長椅子が置いてある。
 椅子に座るとその先に、見覚えのある景色が広がっている。
 ああ・・・これは、さっき中庭で見た・・・・
「この椅子は特等席なのね」
 特に関心があるわけでない・・・自分で言ってしらけてしまった。
「早く、ここから出たいわ・・・私は・・・」
 そのまま、深い眠りに落ちてゆく。

「紅錦香様」
 どこか、聞き覚えのある声がする・・・どこだったかしら
 甘くて、優しい声だ。
 滝のせせらぎのように心地の良い声だった。
「・・・・ん・・・」
 目を開くと、そこには見覚えの無い男が座っている。
 小さな一人用の椅子に座り、対面している。目の高さが丁度同じだった。
「貴方は?」
「帝鴻(ていこう)と申します」
 帝鴻は静かに笑った。深い赤の瞳が印象的だった。
 男性としては平均的な大きさなのだが、幾分、華奢な様に感じる。
 顔立ちのせいだろうか?
 ・・・何も言わず、見定めるような様子に帝鴻は警戒を解くように言葉を続ける。
「元々、ここに居たものです」
「・・・ここに?ここは貴方の住まいだったの?」
「それは違います」
 帝鴻は首を振る
「この屋敷は維邦様の作られたもの・・・ですが、それよりも昔から、ここは私の場所なのです」
 何か言いかけた紅錦香の唇の前に、帝鴻は指を立て
「これ以上は言えません」
 といたずらな表情を浮かべて笑った。

・・・・この男?一体、なんなのだろう

「慣れない場所でお困りでしょう・・・私でよければ、いつでもおりますので」
「・・・そう」
 維邦が用意した世話係か・・・?いや、なんだか違うような気がする。
「貴方は、ずっとここに?」
「・・・ええ」
 色素を忘れて生まれてきたような銀糸の髪が、丁度、手を伸ばせば届きそうだったので触った。
「・・・そう、なんだか勿体無いわね」
 町に居たら、どうだろう・?・・年頃の娘なら、一度は憧れそうな容姿だ。
 顔を近づけたら、さすがに帝鴻は頬を赤らめた。
 ・・・純真で誠実な人なのだろう、警戒は解けた。
 このような、場所で暮らすと、欲や煩悩には一切、関わらずに生きられるのかもしれない。
 だけど、物足りないわ。
 この庭の景色と同じだ、きっとすぐに飽きてしまう。
 常に上の生活を羨んで来た・・・それこそが自分の生き方だと思う。
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