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三章 西王母 桃源郷

「維邦(ゆいほう)様」
 この屋敷の本来の主、
 そして、新しい自分の夫である維邦が、現れたのは二日後の夜だった。
 屋敷に近づくにつれ、歌声が聞こえて来る。
 誰に歌っているわけでもないだろうが、大変美しい声だ。
 屋敷の庭に着く、
 中庭に椅子を置き、座る女性の姿を月明かりが照らしている。
 背中には二つの対になった滝が流れ、
 周囲を囲う桃の花は青白く輝き、ひらひらと花弁を散らしている。
「紅錦香」
 維邦はその女性の名を呼んだ。
「来るのが遅くなってしまい、本当に申し訳ない」
 紅錦香は微笑を浮かべると、歌を続けた。

 問余何意棲碧山  余に問う何の意ありてか碧山(へきざん)に棲(す)む
 笑而不答心自閑  笑而(わら)って答え不(ず) 心自ら閑(かん)なり
 桃花流水們然去  桃花流水(とうかりゅうすい)們(よう)然として去る
 別有天地非人間  別に天地の人間(じんかん)に非ざる有り

 人は尋ねる、どんなつもりで人里離れた山の中に住むのかと
 私は笑って答えない 心は何処までも長閑だ
 桃の花びらを浮かべて水は遠く流れてゆく
 ここには俗世間とは違う世界があるのだから

 維邦はふらふらと吸い寄せられるように、彼女に近づいた。
 恐る恐る手を伸ばす、幻影のように感じられた。
 ・・・手よりもひやりとした、しかし、確かな感触があった。
「お会いしとうございました」
 紅錦香が静かに言った。
「私は・・・女神に出会ったかと思ったぞ」
「お戯れを」
 艶やかな赤い唇が微笑んだ。
「まだ、お酒も召し上がっておりませんのに」
 月明かりが、すぐ目の前の彼女を姿を照らし出す。
 白の薄い衣・・・胸の形や突起、尻の割れ目まで解る。
 維邦がそれに気づいたときに、紅錦香は困ったように頬を赤らめた。
「寝付けなくて・・・夜着のまま、お会いするなんて」
 背を向けた。
「身形を改めてまいります・・・お酒もお出ししなければ」
 そして、歩き出そうとした時、大きな腕が伸びてきた。
「・・・いや、このままでいい」
 後ろから伸ばした手は紅錦香の乳房を掴んでいる。
 もう片方は腰へ
 維邦は紅錦香の耳元でささやいた。
「不自由は無かったか?・・・なんでも言ってくれ」
 荒い息遣いが耳に吹き込んできた。
「・・・・さみしかった」
 言葉が出しづらい。
 すでに維邦は紅錦香の乳房を舐り始めているのだ。
「私は天女ではありませんから・・・」
 涙が流れる。
「愛してもらわないと、さみしくて死んでしまいそう」
 腰にまわした腕が、紅錦香の腰紐を解いた。
「可愛い娘だ」
 そう笑うと、首筋に舌を這わせ、衣を剥ぎ取った。
「恐ろしくなるほど白い肌だ」
 地面に寝かした娘に執拗な愛撫を続ける。
 ああ・・・という娘の歓喜の声が春の夜に溶けた。

 翌日

 身形と改めた紅錦香は、維邦の目覚めを伺い
 楊采に朝げを用意させる。
「義父には、商談のため出掛ると言っておってな」
 申し訳無さそうに言う。
「そうですか」
 紅錦香は悲しげな微笑を浮かべる。
 寂しそうだが、それを見せまいとする姿がいじらしい。
「鴛鴦(エンオウ)様はお元気ですか?」
「ああ・・・本当に」
 鴛鴦とは維邦の義父の事だ。
 逞しく日に焼けた体格のよい男、維邦は、その姿に似合う、豪快な様子で朝げを平らげた。
「あれでは、わたしに仕事を任せてくれるのはだいぶ先だな・・・」
 言い方に嫌味はない、親子関係は上手く行っているのだろう。
「何よりです」
 微笑で答える。
「・・・どうか、また、お越しくださいね」
 別れ際、維邦の胸に顔をうずめて、紅錦香はさめざめと泣いた。
「当たり前だ、お前に寂しい思いをさせるものか」
 維邦は笑うと、傍にあった衣を紅錦香に渡した。
「これは?」
「お前の為に作らせたものだ」
 純白の絹を複雑な模様で織った。光沢の美しいものだった。
「ここは私の理想郷なのだ」
 維邦は目を輝かせながら言う。
「初めて、ここに来たとき思った、こここそが私が求めてきた場所なのだと」
「ええ・・・本当に綺麗な場所ですわ」
 紅錦香はうなづき、話を続ける。
「まるで仙界のよう・・・」
「お前は・・・」
 維邦が彼女の頬に手を伸ばす。

「”西王母”という女神を知っているだろうか?」
 いいえ、と答えると、維邦は興奮気味に続ける。

「崑崙山に住む、不老不死の力を与える女神だ」
 崑崙山には桃の木が連なり、その桃は長生の効能があるという。
「そう・・・」
 紅錦香は困ったように笑った。
「維邦様は私を女神にしたいのですね」
「人にするには惜しすぎる」
 維邦は強く彼女を抱きしめた。
「笑っても良い・・・しかし私は、初めてお前を見たときから思ったのだ。
 この娘は、女神が間違えて人として生まれたのではないかと」
「お上手ね・・・」
 そして彼女の唇を吸う。
「では・・・・」
「あ・・・一つお聞きしたいのですが」
 紅錦香は、どうしても引っ掛かる事がある。
「なんだい?」
「・・・私の身の回りの者なのですが・・・」
 その先は、あえて言わない。
「やはり、侍女一人では、寂しいか・・・」
 維邦は困ったように言った。

 ・・・やはり、あの男は、維邦が使わせた者ではない。
 疑問は確信に変わった。

「いえ、そんなことはありません・・・ううん、二人の方が落ち着くわ」
 表情が多少、引きつったが、維邦は全く気に留めない。
 紅錦香は維邦を見送った。
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