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五章 崑崙山

 滝の音が徐々に強くなっている。
 歩く方向は解ったが、どこを歩いているのか解るほど、紅錦香はこの場所に慣れていない
 ・・・そういえば、滝自体が二つあったはず。
 あのような見事な滝が対にふたつも存在するのはなんとも不思議だ。
「着きましたよ」
 帝鴻が目隠しを外してくれた。
「・・・・なんと・・・」
 確かにそこは、先ほどと同じ桃園が広がっている。
 だが、まるで違う世界なのだということが、紅錦香にも解った。
「地面が・・・無いわ」
 足もとの土が、無い
 濃い霧のようなものが足元に広がり、まるで雪が積もったみたいだ。
 白い地面で反射された草木はいっそうキラキラと輝き、大変美しかった。
 なんとなく、目隠しを外した後も、帝鴻の手を繋いで歩いていた。
 洗濯をするもの、機織をするもの。
 幾人かの男女に出会った。
「すべて”仙人”なのですよ」
 不思議そうな顔をする紅錦香に帝鴻は言った。
「・・・まるで、村みたい」
 長閑で、豊かな村・・・そして、今まで見たどこよりも綺麗な場所だ。
「そういう所ですね、それぞれに役目も与えられているし」
 帝鴻は笑う、とても楽しそうだ。
「ここです」
 帝鴻は、足を止めた。
 すこし上ったところに小さな屋敷がある。
 住むような場所ではなく、足を休めるために休憩する程度のとても小さな場所。
 丸い曲線で出来ている、とても可愛らしい。
 思わず、そこを登り小屋に入る。
「・・・・・あ・・・」
 そこから見える景色に、紅錦香は息を呑んだ。
「やっと信じてもらえたでしょうか?」
 帝鴻が、その様子を面白そうに笑った。
 窓の下には小さな小さな・・・世界
 地面の白い霧の切れ間に、今まで、そこに住んでいた大地が広がっていた。
「ここは、世界の上なのね」
「そうです」
 何故だろう、始めてきた場所なのになんだか懐かしい。
「ここはなんていう場所なの?」
「・・・崑崙山ですよ」
 ああ・・・維邦との朝の会話を思い出した。
「あの、不老不死の力を与える女神が住むという」
 ・・・ええ、と帝鴻はうなづいた。
「ですがね」
 帝鴻は、それは少し違うと話す。
「本来の彼女は”人間の非業の死を司る死神”です」
「死神?」
 あまり、いい響きではない。
「死を司る存在を崇め祭れば、非業の死を免れられる。
 ・・・そんな人々の信仰で、そう呼ばれるようになったのです」
 不老不死など夢のまた夢なのだ。
「信仰なんて、都合のいいものよね」
 紅錦香はそっけなく言った。
 帝鴻は懐かしそうに続ける。
「私達は彼女の事を金母元君(きんぼげんくん)と呼んでいました」
「・・・呼んでいました?」
 変な言い方だ。
「死んでしまったの?神様なのに」
 何気なく、言った言葉だったが、帝鴻をみてハッとした。
 複雑そうな表情・・・なにか悪い事を言ったのだろうか?
「帝鴻?」
「死んではいません」
 帝鴻は紅錦香の両手を握り、自分の心臓の上に置いた。
 人と変わらない、温もりがあった。
 ・・・それ以上、聞いてはいけない。
 直感で思った。話題をそらす。
「崑崙山には桃の木が連なり、その桃は長生の効能があるという」
 朝の維邦の言葉を繰り返す。
「食べますか?」
 帝鴻に顔を覗かれて、紅錦香はハッとした。
「・・・え?」
「その長生の桃ですよ」

 帝鴻は外に出て、そこに生っている一つの桃をもぎ取った。
 表面の汚れを服でこすると、その桃を紅錦香に手渡した。
「・・・本当にこれを食べると長生きできるの?」
「さあ、どうでしょう」
 帝鴻は何とも言えないと、笑って濁した。
「私達は人よりも長生きですから・・・多少伸びたところでさほど変わらないのです」
「そう・・・・」
 一口、口にした・・・甘くてとても美味しい。
 が、普通の桃だと思う。中の果実は白くてとても綺麗だ。
 ・・・維邦なら喉から手が出るほど欲しがるだろうか
 ふと、そんな思いが頭を巡ったが
「これは仙界の桃です」と渡して信じてもらえるはずも無い
 我ながら、馬鹿げた事を考えているなぁ・・・と思った。
 桃を食べ続けていく。
 すると・・・
「!!」
「どうかしましたか?」
 帝鴻が不思議そうに聞いた。
「・・・この種・・・・」
 紅錦香は桃の果実を綺麗に食べると種を手に広げた。白い光沢のある綺麗な玉だった
「真珠みたい・・・こんな大きなもの、始めて見たわ」
 とても、気に入ったので持ち帰ろうと布で包もうとした。
 しかし・・・
「いけません!」
 帝鴻はそれを制止する。
「・・・なんで?」
 たかが”種”ではないか・・・しかし、帝鴻は口調を弱めない。
「これは、人が持ってはならないものなのです」
「・・・・」
 その真剣な目つきに、折れざるを得ない。
「解ったわ」
 名残惜しそうに、紅錦香は種を外に投げた。
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