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九章 泰山 桃源郷

「これはこれは泰山(たいざん)殿」
 鴛鴦は畏まって挨拶をする。泰山と呼ばれた長身の男はにこやかに挨拶を返した。
「お招き頂き、ありがとうございます」
 涼しげな顔立ちで喜怒哀楽の楽以外の表情を一切、表に出す事はない。
 鴛鴦は内心、時にこの男を気味悪く思うのだが、
 常連客ゆえ、その素振りを一切見せることは無かった。
「いえ、とんでもない、泰山殿にはむしろ、こちらが出向かなければならないくらいで・・・」
 ニコニコと鴛鴦は客席へ案内をした。
「ワンワン!」
 客室に通され、椅子に座った泰山に例の犬が喜びをあらわにして飛びついてきた。
 泰山はにこやかに微笑み、犬を膝に乗せて、頭や腹などを撫でて可愛がった。
「犬がお好きなのですか?」
 意外な一面を面白く思った鴛鴦は泰山に聞く。
「いえ、そんなことはないんですけどね・・・この犬はちょっと違うので」
「おお!泰山殿」
 珍種であることに気づいたか!
 娘にもその婿にもこの犬はあまり好評ではないので、鴛鴦は内心自慢したくて仕方がなかった。
「小さいし大人しいので室内で飼うには最適ですね・・・それに」
「それに?」
 泰山は犬の顔の垂れた肉をびろーんと横に伸ばした。
「飼い主にとても良く似ている・・・不細工で可愛いです」
「・・・・・・」
 ・・・常連客でなければ、この場で追い出している所だ。
 鴛鴦は舌を噛んでこらえた。
「これは?」
 入るなり、泰山は一つの宝石をみて、驚きの表情をみせた。
 それは、ささいな様子ではあるが、この男を良く知る、鴛鴦ははっとした。
「さすがは泰山殿・・・お目が高いですな」
 この男すら反応するとは・・・鴛鴦は、久々に優越感に浸る。
「この宝、譲ってはいただけないでしょうか?」
「いやいや、それは出来ません」
 ニヤリと満足げに微笑むと、鴛鴦は続ける。
「息子の友人の形見なのです、わたしにはどうすることも・・・」
「形見?・・・形見ですって?」
 泰山はふふふと楽しそうに笑う。
「・・・何か、おかしいですかな?」
 不謹慎な!という目つきの鴛鴦に泰山は詫びる。
「申し訳ありません・・・ですが」
 泰山が鴛鴦の耳元でささやいた。
「え!?」
 鴛鴦は一瞬、聞き違いではないかと耳を疑った。
「船、3槽」
 泰山が今度はハッキリと言った。
「私が持つすべての船ですが、これを頂けるのでしたら惜しみません・・・差し上げましょう」
 彼が言う船とは、大きくて何人もの使用人や多くの荷物を詰める貿易船だ。
「・・・この石で?」
「悪い話じゃないはずですよ」
 泰山は含んだ笑みを浮かべる。
 紫の深い瞳・・・奈落の底の様な、まったく心を読めない目つきだ。
「解った・・・息子にはわたしから話しておこう」
 欲に勝てず、とうとう鴛鴦は折れた。
「ありがとうございます」
 嬉しそうに、その真珠を手に取るとマジマジと見つめる。
「ずっと、探していたのですよ・・・」
 懐にしまうと、勝ち誇ったように、鴛鴦を見つめる。
「価値のわからぬ貴方が持つよりも、わたしはもっと有効的な使い方を知っている」
 意味深な微笑を浮かべた。泰山は商談の事などどうでもいいと、すぐに去ってゆく。
 ・・・ワシは、踊らされたのか!?
 伝はある、確実に泰山の船は、自分のものになるだろう・・・
 それにしても、あの笑い・・・
 使い方によっては、確実にそれ以上の、価値が出るものなのだろうか?
 ・・・あの石は
「おい!お前!」
 傍にいた使用人の男を呼ぶ。
「泰山の様子を探れ!あの石をどうするのかを!!」
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