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十章 水 桃源郷

「帝鴻」
 すっかり、打ち解けた男の顔を紅錦香は覗き込んだ。
 あれから、維邦は全く訪れなかった。
 飽きられたのか・・・いや
 きっと家庭がごたつき始めたんだわ。
 確信的なものは無いがそう思える。

 最近は、崑崙山で一日過ごす事が多かった。
 庭の周囲と違い、こちらはまだ、人(?)も居るし、刺激もある。
 純粋に生活を楽しみつつある・・・そんな自分が居た。
「前よりも顔色が良くなりましたね」
 と言った帝鴻に
「いやだ。日に焼けたのかしら?」
 と、複雑な顔で答える。
 彼は笑う。
 何がそんなに楽しいのかしら?
 嬉しそうな帝鴻を見て、そう思う。
「ここの滝の水は一体どこから来て、どこへ行くのかしら?」
 下に地面は無い、滝の上は急な斜面の山で、とても登れそうにない。
「だったら・・・」
 帝鴻は笑って答えた。
「貴女は、自分の庭にある滝がどこから来て、どこへ行くのか解りますか?」
「・・・・え・・・」
 河から流れてきて、河へ流れて行くんだろうか
「水は姿を変えて流れてゆきます、湖であったり、川であったり、海であったり」
 どこか、昔を懐かしむように聞こえた。
「ですが、その本質は変わりません、姿と呼び名が変わるだけ」
「・・・帝鴻?」
 寂しそうに項垂れた帝鴻を見て不安に感じた。
「どうしたの?」
「・・・いえ・・・ただ」
 哀しさを押し殺すように、帝鴻は笑う。
「少し、思い出したんです・・・死んだ彼女の事を」
「金母元君」
 即座に浮かんだ。
 帝鴻は驚き、目を丸くしたが、紅錦香は笑って彼の頭を撫でた
「バレバレよ・・・とても特別そうなんだもの」
 そうか・・・とだけ呟くと帝鴻は静かに座り込んだ。
「死は・・・区切りだと思います」
 自分に言い聞かせるように帝鴻は言った。
「命は水のように・・・姿や名を変えて、巡り行くものだと思いたいのです」
「・・・そうね」
 紅錦香は笑ってうなづいた。
「だけど・・・人生は一度しかないわ」
 言葉を強める
 紅錦香は座っている帝鴻の目の前に屈んだ。
 頭の位置が帝鴻よりも低くなった紅錦香は彼を見上げながら言う。
「私が、私として生まれて、思うように生きられるのは一度しかないの・・・だから」
 帝鴻は驚きの表情を浮かべる。
「私は人生を妥協なんてしないわ、悔いなんて、絶対に残さない!」
「・・・貴女は・・・相変わらず」
 懐かしむように呟く
「強いな・・・本当に」
「当たり前よ」
 不敵な笑みを浮かべる。
「だって私には・・・守ってくれる人なんて誰も居ないんだもの」
 色彩の無い雨の日が頭を過ぎる。
 その言葉は特別な言葉だった。
「・・・・」
 帝鴻がはっと表情を変えた。
 ・・・・今、どんな表情をしているのだろう、私は
 立ち上がろうとした紅錦香の腕を帝鴻は握った。
「・・・誰も居ないなんて言わないで」
 突然の事で一瞬驚いたが、帝鴻は俯いていた。
 ・・・いい子ね
 紅錦香は、羨ましかった・・・・擦れたり、卑屈になったり自分には他人を思いやる気持ちが足りない、
 それくらいの自覚はある、私はとても嫌な奴だ。
 静かに帝鴻の背中に腕をまわし、彼を抱きしめる。
 とても穏やかな時間が過ぎて行った。
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