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十三章 嵐 桃源郷

「今日は大地が見えないわね」
 いつもの小屋から、紅錦香は空を見下ろした。
 手には例の桃を持っている。
 中の種が目的なのだが、紅錦香自身、実は甘いものが好きだ。
 それは様子から解るようで、来るたびに口にしていても、帝鴻はまったく疑問を持たない。
 白い渦のような雲が、紅錦香が住んでいるであろう場所を覆っていた。
「強い雨がありそうですね」
 帝鴻は、ため息混じりに言う。
「花が散ってしまう・・・そういえば」
 帝鴻が真面目な顔をして、紅錦香に向き直った。
「貴女はこの場所を気に入っているようなので、言わなければなりません」
「何を?」
「貴女の住んでいる場所は”春の間”今しかここに繋がっていないのです」
「え・・・」
 考えた事もなかった、ここに来れなくなるなんて
「桃の花が散った頃、この入口は閉じてしまう
 ・・・だから、多少無理をしても、貴女をここに連れて来たかったんです」
 紅錦香は手に持っていた種を眺めた。
 ・・・この種、役に立ちそうなのに
 そう思うと残念でならなかった。
「ねえ・・・」
 何気なく話題を振る様に勤める。
「何ですか?」
「この種・・・本当に綺麗で・・・持って帰っちゃ駄目なのかしら」
 帝鴻は困った顔をする。
「もちろんです」
「・・・じゃあ、庭に埋めるのは?」
「この桃は地上では育ちませんよ」
 帝鴻は、眉をひそめた。
「でも!」
「・・・何故そこまで執着するのです?」
 目をギラリと光らせた。
 ・・・勘付かれた!?
 それ以上は無理だ。
 紅錦香は手の種を捨てると、話題を変えようと背中を向けた。
 ・・・そのとき
 ふっと、風を切る音がした。
 バラバラと何かが音を立ててこぼれた。
「・・・え・・・」
 何が起きたか解らない、紅錦香は振り返った。
「やっぱり・・・」
 帝鴻が俯く、手には抜かれた剣を握っている。
 自分の片方の袖が切られ、そこに隠し持っていた、玉が地面に零れ落ちていた。
 ・・・・今の風を切る音は、居合いで切った音だったのだ。
「・・・あ・・」
「・・・・4つも・・」
 帝鴻がわなわなと震えている。
「あれほど、忠告したでしょう?持ち帰るなと」
 始めてみる、彼の怒りの目だ。
「!!」
 恐い・・・自分がとんでもない事をしてしまったような気がする。
 だけど・・・
「・・・・何よ・・・」
 心から、謝ることなど、今まで一度もなかった・・・誰にも
「たかが種じゃない・・・」
 気持ちのまま、憎らしい声で言う。
「な・・・」
「そんな種で何が出来るって言うの?なんで、そんなことで怒られなくちゃいけないの?」
 自分が悪いのなんて百も承知だ・・・だけど、引くことができない。
「貴女が心配だからに決まっているでしょう?」
「放っておいてよ!!」
 紅錦香は叫んだ。
「そんな事言って、私がなびくとでも思ってるの?」
 同情されるのは嫌いだ。
「そうよ・・・別に貴方の事なんて何とも思ってないわ、この種が欲しかったから通っていたの」
 ・・・本当に?
 ここ数週間の自分を思い出す。
 少なくともここに居る時だけは素直で居られた。自分を作る必要が無かった。
 だけど・・・
「・・・守ってくれる人なんて、いらない・・・だって」
 目の前に哀しそうな顔がある・・・以前にもこんな事を言って、こんな顔にさせたっけ
「私は誰も愛せないんだから!!」

バン!

 頬が痛む。
 だけど、それ以上の強い衝撃が頭を走った。
 真っ白になる。
「・・・それは、貴女の強がりだ」
 帝鴻は強い口調で続ける。
「人に心を許す事も、信じる事も、貴女は知らないのかもしれない・・・」
 とても腹立たしい・・・なんでこんな一番弱い部分を、曝け出されているのだろう?
「自分自身を偽って、本当にそれは生きているのですか?」
 はっと凍りついた。
「”思うように生きたい”貴女は少し前に言った」
 帝鴻は毅然と続ける。
「貴女は・・・本当に今”生きている”んですか?」
「・・・・あ・・・」
 頭を抱える・・・自分がこの世の中でもっとも惨めな存在のように思えた。
 ・・・解らない
 わたしは・・・
「・・・・・あ・・・あれ・・・」
 気がつくと、紅錦香は自室の長椅子に眠っていた。
 ・・・・さっきのは夢?
 そんな、気持ちにさせられたが、自分の袖をみて、そうでないことに気付いた
「・・・ふふふ」
 乾いた笑いが浮かんだ。
 さっきまでの出来事が鮮明に浮かんだ。
「きっと、私は追い出されたのね」
「愛していない」「利用した」「放っておいて」・・・言いたい放題、言ったものだ
 帝鴻はさぞ、怒っただろう
 ・・・ううん
 違う・・・解ってる。
 自分を殴った時の帝鴻の目・・・あれは、悲しみの目だ。
 相手を責めるものではない、自身が傷ついた・・・目
 ・・・そっちの方がずっと辛い。
 何故、こんなにも自分に懸命に接しようとするのか
 本人すら目を背けたことを、見つめさせようとするのか
 ・・・解らない。
 外を見ると、雨がザアザアと勢いよく降っている。
「桃の花はきっと散ってしまうわね」
 紅錦香は呟いた。
 そうしたら、自分はもう向こうへはいけなくなる。
 ・・・帝鴻にも会えなくなるのだろうか?
「嫌だわ・・・」
 何故だろう?こんな気持ちになるなんて。
「雨のせいよ・・・こんな」
 惨めな思いになるなんて・・・
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