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十五章 幸福 桃源郷

「!!」
 紅錦香ははっと目を覚ました・・・ベッドの上
 ・・・再び眠りに落ちるなんて
 こんな鮮明な夢は久々だった、光景も感触も忘れられない。
「・・・・」
 あれ?不思議だわ・・・なんだか暖かい。
 もたれかかっていた背後から腕がのび、背中から抱きしめられた。
「紅錦香」
 親しみのある・・・そして、どこか懐かしい声がすぐ後ろから響いた。
「帝鴻・・・」
 追い出したんじゃなかったの?嫌いになったんじゃなかったの?
「・・・なんで私なんかを」
 頬を涙が伝う。
「大事にしてくれるの・・・私はあんなに傷つけたのに」
「好きだからですよ」
 帝鴻は笑って答えた。
「それだけです・・・他に理由はない」
 ・・・それだけ?
 無条件で愛せるの?貴方は
 まるで、かつての母のように・・・
「・・・うっ・・・うう・・」
 糸が切れたように涙があふれて・・・こぼれて・・・止まらない。
 子供のように詰まらせながら、声をあげて泣いた。
 ・・・そう、ここに居るのは5歳の自分
 感情を押し殺されて、ずっと閉じ込めてきた自分なんだ。
「ねえ、帝鴻」
 彼の手を自分の胸の上に重ねた。
「・・・・抱いてよ、好きだというのなら」
「なっ!?」
 背中から、帝鴻の高鳴る心臓の音がする。
 ・・・正直だと思う。
「わたし・・・恐いのよ」
 紅錦香は、帝鴻の腕に口付ける。
「・・・貴方が離れてしまうのが・・・好きになりたくなかった」
 だけど・・・
「もう、手遅れよ・・・離さないで」
 帝鴻は紅錦香を強く抱きしめると、その首筋に口付けた。

「・・・わたしね」
 雨は降り止まない、久々に今日は冷え込んでいる。
「とても、貧しい子だったの・・・その日の暮らしにも困るような」
 さっき、見たあの夢・・・帝鴻にならばすべて話してもいいと思える。
「ええ・・・」
 帝鴻は驚く様子は無い。
「・・・もしかして、知ってたの?」
 直感でそう思った。何故だか、最初から懐かしかったから。
「・・・ずっとね、貴女を見ていたから」
 恥ずかしそうに頬を染めた帝鴻は、静かに紅錦香の帯に手を伸ばした。
 重い複雑な模様と装飾をされた帯が、落ちる。
 まるで、拘束を解かれるような、開放感を感じた。
「綺麗になりたかった・・・豊かになりたかった」
 衣を脱ぎながら、紅錦香は言う。
 結果、申し分のない生活を自分はしている・・・はずなのに。
「だけど、違うのね」
 一糸、まとわぬ姿になった紅錦香は、帝鴻の目を見つめた。
「私は貧しいままだわ・・・綺麗になんかなれない」
「そんなことはないよ」
 帝鴻の手が伸びて、強く抱きしめる。
「綺麗だ・・・貴女はいつも・・・」
 額に口を付ける。
 ・・・初めてなはずなのに、知っている気がする。
 紅錦香は帝鴻の唇を吸った。
「・・・ねえ、金母元君は・・・私の前世なの?」
 顔と顔がとても近い、帝鴻は目を見開いた。
「嫌じゃないわ・・・むしろ嬉しい」
 本音だ・・・安心させたくて、笑顔を作る。
「常に見守りたいと思う大事な人・・・とても嬉しいわ」
 帝鴻の腕に抱かれる、人肌をこんなにも恋しく思った事はない。
「でも、きっと私は彼女と全然違うのでしょうね」
 自分は昔、どんな女だったのだろう・・・容姿は、性格は
「貴女は変わらない・・・姿も、心も」
 力強く、彼は言う。
「本当に?」
 ちょっと試すような意地悪な微笑を浮かべて、紅錦香は笑った。
「お世辞は嫌よ・・・全く同じなんてきっと嘘だわ」
 困る表情の帝鴻をみて、紅錦香は笑う。
「・・・・そうだな」
 しばらく悩んだ後、帝鴻は呟く。
「・・・・胸は・・・そのうち」
 容姿と相成らぬ小さな胸・・・成長が遅い事が彼女の悩みだった。
「・・・バカ」
 軽く小突くと、申し訳無さそうな表情を浮かべて彼は笑った。
 それにつられて、自分も笑顔になる。
 声に出して笑った・・・こんな事、何年ぶりだろう。
 ・・・肌寒い春雨も、今、とても暖かく感じる。
 ベッドの上に、裸の男女が二人、
 他に何もないのにとても充実し、満ち足りた気持ちになる。
「・・・ねえ、帝鴻」
 胸に耳をあて、鼓動を聞く。
「離さないで」
 やっと手に入れたもの、かけがえのないもの。
 ・・・だけど、それが、春の雨で散ってしまう桃の花のように儚いもののように思えてしまう。
 帝鴻の手に力がこもった。
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