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十九章 披露宴 桃源郷

 維邦は盛大な宴を用意した。
 暗い夜空の下、大きな屋敷の庭に多くの客が・・・
 松明で揺れる炎がとても幻想的だ。
 吉兆の色である赤で統一された飾りや、絨毯。
 ・・・父の不幸があったことなど、忘れてしまったようだ。
 などと、陰口を叩くものもあったが、今やすべての財産は維邦の物。
 少しでも気に入られたいと、皆、下心がある。
 皆で盛大に祝福を祝う、余興の舞いも見事なものである。

「・・・今夜は、楽しい夜になりそうですね」
 一人の男が、ニコニコと微笑みながら、隅で酒を楽しんでいる。
 長身の男、仏面顔に深い紫瞳がどこか不気味だ。
「・・・泰山殿」
 男は呼ばれる、こんな隅で人目に付くとは到底思えないのだが・・・・
「ああ、これは」
 その人物をみて、泰山は嬉しそうに微笑んだ。
「・・・お久しぶりです・・・本当に」
「奥様」
 着付けと化粧を施した後、楊采は目を潤ませながら言った。
「美しいです・・・本当に、本当に」
 紅錦香は銅鏡で、自分の姿を見る。
 緋色の婚礼衣装、かつて見たことがないほど豪華なものだ。
 上質な絹で作られていて、全体に刺繍が施されている。
 冠は翡翠と金細工で作られている。
 中央の翡翠の鳥が大きく羽を広げていた。
「青鳥・・・ね」
 紅錦香は呟く、青鳥は西王母が宴を開くときに出す使い鳥とされ、吉兆の印とされていた。
 ・・・なんという皮肉だろう。
「楊采・・・」
「なんですか?」
 紅錦香は立ち上がる。不思議そうに楊采は彼女を見上げた。
「私・・・維邦様に会ってくるわ」
「いけません!」
 それを慌てて、楊采は止める。
「花嫁なのですから、ここに控えておかなければ・・・用事ならあたしが行きます」
 紅錦香は首を振る。
「いいの・・・私がそうしたいのよ」
 鋭い視線に、楊采は思わず、道を譲った。
「・・・やっと、心が決まったわ」
 紅錦香は、維邦の元に足を進める。
「紅錦香!」
 維邦は、振り向き驚いた。そして、その姿に見惚れる。
「・・・美しい、やはりお前は女神のようだ」
 興奮気味に維邦は話す。
 前に尋ねてきた頃を思えば、維邦は冷静さを取り戻しほぼ、昔のままだ。
 ・・・だけど、惹かれない・・・
「維邦様にお話があります」
「・・・どうしたと言うのだ」
「・・・維邦様」
 抱きしめようと手を伸ばした、彼の手を、紅錦香は払った。
「私は・・・貴方の妻にはなれません」
「なんだ・・・と」
 何を言われたのか、解らなかった。
「だって、私は・・・初めから、貴方の事など愛していないのだから」
 表情を変えずに紅錦香は言った。
「何を・・・何を言っている」
 維邦はまだ、理解できない・・・いや、理解したくない。
「ここまでの宴を用意して何が不満だというのだ・・・私に恥をかかせるつもりか!!」
 違う・・・そうじゃない。
 維邦はそれ以上に、恐ろしいものがあった。
「お前は、私を愛していないと・・・」
 体がちぎれそうな、悔しさが広がってゆく。
「愛していないというのか・・・すべて、嘘だったと」
「そうよ」
 紅錦香は、初めて、彼の前で涙を流した。
 嘘の涙なら、何度でもある・・・でも、そうじゃない。
「私・・・好きな人が居るのよ」
 感情がいろいろこみ上げてきたが、すべて、この一言に詰められていた。
 一番、言いたかった・・・これこそが自分の本音だ。
「貴方が居ない、あの桃園で、私はその人とずっと過ごしていた」
 懐かしい、もう二度と行けないであろう、あの場所。
「初めて、誰かを好きになった・・・こんな風に誰かを思うなんてなかった」
「・・・お前・・・」
 維邦が、震えだす。
「男を連れ込んでいたのか・・・私の目を盗んで」
 紅錦香は答えない。
「もう、誰かの道具になるなんて嫌よ」
 拾った前夫の父も、前夫も、維邦もすべて、いいように扱いたかっただけなのだ。
 そこに恋愛感情があるのかは解らないが、誰が自分の気持ちを汲み取ろうとしてくれただろう?
「貴方と結婚しても、私は生きていけない・・・死んだも同じだわ」
 悔いしか残らない・・・だから
”殺して”
 そう言おうと口を開いたのと、剣が胸に刺さったのは、ほぼ同時だった。

 大量の血がまわりに飛び散る。
 目を見開く・・・天井が見えた。

 終わった・・・やっと・・・
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