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二十章 正体 桃源郷

 維邦は息を荒げる。
 目の前には、花嫁が仰向けで倒れていた。
 美しい切れ長の瞳は見開き、空を見つめていた。
 胸から溢れた血が床に血溜まりを作っていた。

 ・・・即死だ。

「は・・・ははは」
 空しい笑いが響く。
 本当に・・・なんて事をしてしまったんだろう、自分は
「・・・財産なんて」
 赤い婚礼衣装、その冠と取ると、床に叩きつけた。
「入らないと思えた・・・特に最近のお前を見ていたら」
 自分に気がないことに気づいていた・・・だからこそ気を引かせたかった。
 何かを一心に考えているようだった。
「お前は本当に綺麗だ・・・それが、他の男に焦がれる姿だったなんて」
 許せなかった。これ以上の裏切りを維邦は知らない。
「維邦殿」
 背後に声がして、はっと振り返る。
 見覚えのある男だった。
 義父である鴛鴦の商売相手の一人だ。
「泰山殿・・・」
 手には剣、床には花嫁の死体・・・状況は誰の目にもハッキリわかる。
 もう、隠す事もできない。
 そう思った次の瞬間、その横のもう一人の男の存在に気づいた。
 平均的な身長に、整った顔立ち。
 銀色の長い髪の身形のよい若者だ。

「よくも・・・」
 深い赤の瞳が恨めしそうにこちらを見てる。
・・・直感で解る。
「お前が・・・」
 維邦は唇を噛む・・・血が滲んだ。
「お前が紅錦香をたぶらかしたのか!!」
 帝鴻に剣を構え、叫ぶ。
「どうした、剣を抜け!!」
「剣を抜け・・・だと」
 帝鴻は眉をひそめる。
「貴様など、我が相手をする価値もない」
 汚いものを見るような目で、帝鴻は指を鳴らした。
 維邦の懐にあった、あの桃の種が飛び出し・・・地面で割れる。
「なっ・・・」
 種の中から、黒い影のようなものがあふれ出し。
 維邦を覆う。
 それは口から耳から、維邦の中に進入する。
「この種は邪気を吸収する力があってな」
 帝鴻は呟いた。
「持ち主の邪気を吸い取って膨らんだ種はひとつの鬼となる」
 あらゆる部位が腫れあがり、もはや人とは呼べないものと化した維邦に
 帝鴻は笑いながら言った。
「お前は鬼の良い寄り代になりそうだ・・・存分に暴れるがいい」
 鬼は客の居る庭に飛び出していった。
「・・・紅錦香・・・」
 震える手で、彼女の目を閉じさせると、帝鴻は紅錦香を強く抱きしめる。
「彼女は・・・幸せだったはずだ」
 言い聞かせたかった。
「・・・だけど、知らないほうが幸せだったのか?人を好きになることを・・・」
「だから干渉するなと言ったでしょう?」
 泰山はいつもの落ち着いた表情で言った。
「私達は、人とは一緒になれません、お互いに関わらない方が幸せなのです・・・特に貴方達は」
 髪を掻き揚げ二人を見つめる。
・・・本人達は、気づいていないのだろうか?
 泰山は不思議でならない。
 目の色、髪の色、顔の作り等、すべて違うはずなのに
 この二人はどことなく、血を分けた双子のように雰囲気が似ているのだ。
 性格は、片方に足りないものを、もう片方がもっている
 惹かれあうのは必然的なことだった。
「貴方達は、対極にある存在・・・言わば鏡のようなものなのですよ」
「え・・・」
 帝鴻には、その意味が解らなかった。

「いつから・・・この種に気づいていたのですか?」
 紅錦香を抱きながら、帝鴻は泰山を見上げた。
「言って頂ければ、差し上げたのに」
 責めるような目
「私は・・・」
 泰山は微笑を浮かべて笑う。
「彼女が食べた桃の種が欲しかったのです・・・彼女は私に近い力のある神なので」
 泰山府君は閻王の侍者であり地獄の一王だ。
 住む世界が異なるので仙界には滅多に訪れる事はない。
「私は彼女と同じ死神ですから」
 にこやかに微笑んだ・・・何を考えているのか、帝鴻ですら推し量る事はできない。
「少し協力して差し上げたかったのです・・・彼女の計画に」
 泰山は懐から、種を取り出した。
 最初に鴛鴦から買った、あの玉だ。
「これも、そろそろ丁度いい頃か・・・

十九章 披露宴 桃源郷

 維邦は盛大な宴を用意した。
 暗い夜空の下、大きな屋敷の庭に多くの客が・・・
 松明で揺れる炎がとても幻想的だ。
 吉兆の色である赤で統一された飾りや、絨毯。
 ・・・父の不幸があったことなど、忘れてしまったようだ。
 などと、陰口を叩くものもあったが、今やすべての財産は維邦の物。
 少しでも気に入られたいと、皆、下心がある。
 皆で盛大に祝福を祝う、余興の舞いも見事なものである。

「・・・今夜は、楽しい夜になりそうですね」
 一人の男が、ニコニコと微笑みながら、隅で酒を楽しんでいる。
 長身の男、仏面顔に深い紫瞳がどこか不気味だ。
「・・・泰山殿」
 男は呼ばれる、こんな隅で人目に付くとは到底思えないのだが・・・・
「ああ、これは」
 その人物をみて、泰山は嬉しそうに微笑んだ。
「・・・お久しぶりです・・・本当に」
「奥様」
 着付けと化粧を施した後、楊采は目を潤ませながら言った。
「美しいです・・・本当に、本当に」
 紅錦香は銅鏡で、自分の姿を見る。
 緋色の婚礼衣装、かつて見たことがないほど豪華なものだ。
 上質な絹で作られていて、全体に刺繍が施されている。
 冠は翡翠と金細工で作られている。
 中央の翡翠の鳥が大きく羽を広げていた。
「青鳥・・・ね」
 紅錦香は呟く、青鳥は西王母が宴を開くときに出す使い鳥とされ、吉兆の印とされていた。
 ・・・なんという皮肉だろう。
「楊采・・・」
「なんですか?」
 紅錦香は立ち上がる。不思議そうに楊采は彼女を見上げた。
「私・・・維邦様に会ってくるわ」
「いけません!」
 それを慌てて、楊采は止める。
「花嫁なのですから、ここに控えておかなければ・・・用事ならあたしが行きます」
 紅錦香は首を振る。
「いいの・・・私がそうしたいのよ」
 鋭い視線に、楊采は思わず、道を譲った。
「・・・やっと、心が決まったわ」
 紅錦香は、維邦の元に足を進める。
「紅錦香!」
 維邦は、振り向き驚いた。そして、その姿に見惚れる。
「・・・美しい、やはりお前は女神のようだ」
 興奮気味に維邦は話す。
 前に尋ねてきた頃を思えば、維邦は冷静さを取り戻しほぼ、昔のままだ。
 ・・・だけど、惹かれない・・・
「維邦様にお話があります」
「・・・どうしたと言うのだ」
「・・・維邦様」
 抱きしめようと手を伸ばした、彼の手を、紅錦香は払った。
「私は・・・貴方の妻にはなれません」
「なんだ・・・と」
 何を言われたのか、解らなかった。
「だって、私は・・・初めから、貴方の事など愛していないのだから」
 表情を変えずに紅錦香は言った。
「何を・・・何を言っている」
 維邦はまだ、理解できない・・・いや、理解したくない。
「ここまでの宴を用意して何が不満だというのだ・・・私に恥をかかせるつもりか!!」
 違う・・・そうじゃない。
 維邦はそれ以上に、恐ろしいものがあった。
「お前は、私を愛していないと・・・」
 体がちぎれそうな、悔しさが広がってゆく。
「愛していないというのか・・・すべて、嘘だったと」
「そうよ」
 紅錦香は、初めて、彼の前で涙を流した。
 嘘の涙なら、何度でもある・・・でも、そうじゃない。
「私・・・好きな人が居るのよ」
 感情がいろいろこみ上げてきたが、すべて、この一言に詰められていた。
 一番、言いたかった・・・これこそが自分の本音だ。
「貴方が居ない、あの桃園で、私はその人とずっと過ごしていた」
 懐かしい、もう二度と行けないであろう、あの場所。
「初めて、誰かを好きになった・・・こんな風に誰かを思うなんてなかった」
「・・・お前・・・」
 維邦が、震えだす。
「男を連れ込んでいたのか・・・私の目を盗んで」
 紅錦香は答えない。
「もう、誰かの道具になるなんて嫌よ」
 拾った前夫の父も、前夫も、維邦もすべて、いいように扱いたかっただけなのだ。
 そこに恋愛感情があるのかは解らないが、誰が自分の気持ちを汲み取ろうとしてくれただろう?
「貴方と結婚しても、私は生きていけない・・・死んだも同じだわ」
 悔いしか残らない・・・だから
”殺して”
 そう言おうと口を開いたのと、剣が胸に刺さったのは、ほぼ同時だった。

 大量の血がまわりに飛び散る。
 目を見開く・・・天井が見えた。

 終わった・・・やっと・・・

十八章 後悔 桃源郷

「帝鴻・・・」
 維邦が帰ってから、どれほど時間が過ぎただろう。
 力のない言葉で紅錦香は呟いた。
 きっともう自分は崑崙山には行けない。
 来年になれば、桃の花はまた美しく咲くのだろう。
 ・・・しかし、維邦の元へ嫁いだ後、再びここへ訪れる事はないだろう。
 そんな風に思う。

 維邦が居る間、帝鴻は全く姿を現さなかった。
 居なくなった後も・・・
「ねえ・・・出てきてよ」
 酷いわ・・・離さないでって言ったのに。
「・・・・居るんでしょ?」
 そう確信できた・・・あの人はずっと自分を見守っている。
 今まで、そうであったように・・・
「最後に、一度だけでいいの・・・」
 涙が溢れてきた、今までこんな気持ちのなることがなかった。
 こんなにも哀しい気持ちに・・・
「このままじゃ貴方を忘れられない・・・お願いよ」
 嗚咽を漏らして手で顔を覆うと、抱きしめる腕があった。
「・・・帝鴻」
 こんなにも、こんなにも懐かしい。
「さっきのも・・・全部見てたの?」
「・・・見れるわけがないでしょう」
 帝鴻は視線をそらし、俯いた・・・哀しそうな、きっと今の自分と同じ瞳。
「そう・・・」
 最も自分を愛していてくれる人・・・なのに。
「私、維邦の正妻になるの・・・」
「ええ」
「邪魔なものはすべて排除した・・・全部、計算通りだった」
「・・・・ええ」

 バシッ!

 力強く、紅錦香は、帝鴻の頬を殴った。
 愕然とする帝鴻の前で、紅錦香はかつてないほど、叫ぶ。
「何で止めてくれないの!?」
 気がふれてしまいそうな感情をどうして抑えられようものか。
「冷たい男!!私の事なんてどうでもいいの?」
「そんなはずがないでしょう!?」
 紅錦香の肩にまわした腕を、帝鴻は強く胸に抱きしめる。
「貴女の事だけを・・・ずっと、ずっと思い続けていて」
 帝鴻の温もりが伝わる、帝鴻もまた確かめるように抱きしめていた。
「だからこそ、地上で、本心を表に出せずに偽って立ち回る貴女を、見ていられなかった」
「ええ」
 紅錦香はうなづく。
「貴方のおかげで解ったわ・・・どれだけ私が」
 帝鴻の目を見る。
「着飾るだけの、さもしい女だったかと・・・金と権力に貪欲な、汚い女だったと」
「違う・・・」
 帝鴻は目を離さない。
「貴女の魅力は外見だけじゃない・・・強くて優しい人、それが貴女だ」
「ねえ、帝鴻」
 紅錦香は恐る恐る言う・・・本当は解ってる、だけど認めたくない。
「貴方はもう・・・会ってくれないの?」
「・・・・・・・」
 帝鴻は何も答えない・・・しばらくの沈黙の後、帝鴻は呟いた。
「わたしと貴女は生きる場所が違うんです・・・もう出会わない方がいい」
「嫌よ!!」
 叫ぶ
「だったら・・・今、殺して!!私を殺して」
 抱きしめられていなかったら、きっとその場に倒れこんでいただろう。
 帝鴻は腕を離さなかった。
「・・・だから」
 悔しそうに唇をかみ締める。
「ダメなんだ・・・このままでは、貴女も私もダメになってしまう」
 帝鴻は紅錦香の顔を見つめる。
「私は、貴女に人生を生き抜いて欲しい、貴方の命を手折るわけには行かないのです」
「・・・だけど」
 涙が止まらない。
「このままじゃ私、生きていないの・・・生きていないのよ!」
 昔、崑崙山で、二人で語った日の事を思い出す。
「私・・・あの時言ったわ、”人生を妥協なんてしないわ、悔いなんて、絶対に残さない”って」
「・・・ええ」
 懐かしそうに帝鴻が微笑んだ。その微笑がつらい。
「わたしの今の願いは、叶わない・・・一生・・・叶わない」
 何も解らなかった、子供だった自分・・・もう、道は引き返せない。
「・・・・私は・・・・人を愛する事を今更、知ってしまったんだわ」
 胸に顔を埋める・・・遅すぎる。
「私は、貴方に・・・」
 体の力が抜ける・・・ずるずると体が下がってゆく。
「出会わなければ良かった・・・その方が、幸せだった」
 愕然とした表情で、帝鴻は一点を見つめた。
 その一言は、何よりも言われたくない言葉だっただろう。
 ・・・だけど・・・本音だ。
「人を陥れることしか知らない、馬鹿で居れば。
・・・・こんな・・・こんな、悲しい別れをしなくて済んだのに」
 苦しい・・・苦しいわ。
 私はもう、生きていけない・・・この人が居ないと・・・私は

十七章 結果 金平糖

「紅錦香!」
 久々の再会だった。日が丁度、高い位置にある。
 維邦が訪れるのは仕事を終えた夕刻か夜が多かった。
 違和感を感じながらも、紅錦香はいつも通り、丁重に出迎える。
「・・・・」
 維邦の表情が険しい・・・頬がこけ、以前の明るく逞しい雰囲気からはかけ離れている
「何かあったのですか?」
 不安そうに尋ねる。
 ・・・とはいえ、そのきっかけを与えたのは自分だ。
 動向を冷静に推察しようとする自分が居る。
「鴛鴦が・・・・死んだ」
「!!」
 予想外だ、次の手も考えていたというのに。
「・・・まさか、維邦様が」
「それは違う!」
 維邦が力強く言う。
「獣に食いちぎられていた・・・誰が仕向けたかは解らない」
 ・・・真珠玉は結局見つからなかった。だが、維邦は諦めたわけではない。
「なんと・・・・」
 思っていた以上に簡単に事が運んでしまった。
 まるで、誰かが手伝ったかのように
 ・・・なんだか不気味だ。
「不安になる事はない」
 維邦は不敵な笑みを浮かべると長椅子の隣に腰掛けていた紅錦香を押し倒した。
「・・・何を」
「お前に会いたかった・・・ずっとそれだけを思っていた」
 腰紐に手を伸ばす。
 めくれた裾から、あらわになった太ももを舐め始めた。
「・・・そんな・・・まだ、日も高いのに」
 困惑しながら、紅錦香は言う。
 そんなこと関係あるかと維邦は笑った。
「・・・お前は」
 維邦は紅錦香の顎を持ち上げて、表情を堪能する
「一段と美しくなったな」
 唇を吸う。
 ・・・嫌だ!
 決して、醜い男ではない。何度も抱かれた。
 ・・・今でも、決して嫌いな訳じゃない。
「開花した花のようだ、香り立つ色香がまるで違う」
 足を、胸を・・・そして隠れた部分を執拗に舐る。
 紅錦香はただ、目を瞑り、時間が過ぎるのを願った。
 翌日、
 紅錦香はいつものように朝げを用意させ
 維邦はそれを食べる。
 いつも、この後、維邦は帰ってゆく。
 紅錦香は今、その時を強く願っている。
 ・・・すべては自分の計算通りだったはずなのに
 何でこんな気持ちになるのだろう?
 ううん、解っている・・・私は・・・
「維邦様、名残惜しゅうございます」
 いつも通りの別れの言葉を言う。
 ・・・しかし、いつもと維邦は様子が違った。
「いや、今日は帰らぬ」
 え?・・・紅錦香は目を見開いた。
「・・・もはや、すべての財産は私の物なのだ、しばらく帰らなくとも誰にも咎められぬ」
 不敵な笑みを浮かべる。紅錦香は困惑した。
「・・・ですが、奥様が心配するでしょう?」
「蓮久か・・・あの女なら等に居らぬ」
 ギラリとした恐ろしい目、紅錦香は思わず息を呑んだ。
「・・・追い出したのですか?」
「出て行ったのさ、死んだ義父を笑う私を見て、失望したようだ」
「・・・・」
 あの雨の日の光景が目に浮かぶ、
 紅錦香の手を掴み、引きずり込んだ老人・・・母をゴミのように殺した。
 維邦は紅錦香を抱きしめると、ベッドへ誘う。
 この男が、蓮久にした行為。
 ・・・それはあの老人が自分にしたことと寸分違わないように思われた。
「・・・・ああ・・・」
 嫌がっては駄目だ、抵抗したい行動を必死で抑える。
 しかし、体は硬直し全身が嫌がっていた。
「桃の花はすっかり散ってしまったな」
 ボロボロに疲れ果てた体、紅錦香は仰向けのまま、天井を仰いだ。
 満足した様子の維邦は、眺めの良い窓部屋から、外の様子を眺める。
「花が散ってしまうと、ここは寂しい所だ」
 つまらなさそうに、維邦は呟く。
「桃は散ってしまったが、お前はこれからさらに美しくなるのだろうな」
 心酔した様子で維邦は紅錦香を褒め称えたが、それは紅錦香の耳に届かなかった。
 ・・・何もかもが、空しい。
「お前は、ここに置くには惜しい」
 維邦は力を込めて言う。
 数ヶ月前、それは、一番、言って欲しかった言葉だった。
 そのはずだったのに・・・
「はい」
 心のない返事を呟いた。
「お前を正妻として迎えたい・・・共に来てくれるか」

「はい」
 そうかと、維邦は嬉しそうに言った。
 紅錦香に口付けをする。
 ・・・早く帰って
 ただ、それだけを願った。ただ、それだけ・・・

十六章 変死 桃源郷

 維邦は、それからまったく鴛鴦と顔を合せなかった。
 自分には多忙な仕事がある、ただでさえ家に居る時間はなかったし
 鴛鴦はあれから、維邦を恐れ、姿を見せようとしない。
 ・・・・会えば、返すよう催促されるとでも思っているのか?
 あれは自分の物だ、もう一つ持っているとは言え、とても腹立たしい。
 八つ当たりのように、使用人に厳しくする自分が居た。
 紅錦香に会いたい。
 あの場所こそが、自分の理想郷・・・癒される場所なのだ。
「維邦!」
 早朝、家に帰ると、蓮久が不安そうに出迎える。
「貴方・・・最近変よ、お父様も」
 一別し、自室に向かおうとする。
「待ってよ!!」
 それを蓮久は腕を掴んで止める。
「まるで、何かに憑かれているみたい・・・恐いわ」
 身を震わせて、泣く。
「お父様も、最近変なの・・・今朝は部屋からも出てきてくださらないし」
 ポロポロと涙をこぼす。その姿にさすがに同情を覚えた。
「わかった・・・私が様子を見てこよう」
 維邦は、鴛鴦の離れの屋敷を訪ねる。
「父上!」
 ドアを叩く、返事はない。
「あの事を怒っているのですか?」
 許すつもりはない・・・だが、自分は被害者だ。
 そのことで、自分は義父よりも強い立場に居る・・・そのことが維邦を後押しした。
「蓮久も心配しております・・・開けますよ」
 以前なら恐れ多くて開けることが出来なかった鴛鴦の屋敷のドアを、維邦は返事を待たずにあけた。
 ・・・・返事など返ってくる筈がなかった。
「なっ・・・」
 生臭い匂い。
 部屋のあちこちに飛び散る血痕。
 猛獣に食いちぎられたように、鴛鴦の五体はバラバラに散らばっていた。
 鴛鴦が逃げ惑ったのか、猛獣が暴れまわったのか。
 豪華な装飾品や家具などが無残に壊れて散らばっている。

 死体は醜かったが、血の色は鮮やかだった。
 ・・・恐らく、明けの頃、殺されたのだろう。
 その死体は、何故か血と灰にまみれていた。
 火を焚くような季節ではない・・・それは明らかに不自然だったが
 目の前の異常な光景からは、ほんのささやかな事のように思われた。
「あ・・・・ああ・・・」
 維邦と共に説得をしようと思ったのか、遅れてやってきた蓮久は声を震わせる。
 血色のない顔は一点を見つめ、膝からガクンと床に倒れこんだ。
「お・・・おとうさま・・・お父様!!」
 その様子に、幾分かの冷静さを取り戻した。維邦は、その場でクククと笑いをもらした。
 そうか、死んでしまったのか、鴛鴦は・・・
「手間が省けた・・・」
「え・・・」
 その言葉に蓮久はハッとした。
「罰が当たったのだ・・・俺のモノを盗み、俺を軽んじた」
 維邦は鴛鴦の懐を探る、あの石が欲しかった。
「・・・何を・・・」
 信じられない・・・鬼を見るような形相で、蓮久は叫ぶ。
「お父様が亡くなったのに!!なんで!!」
 維邦は嬉しそうだ・・・残酷な笑い声が恐ろしくて蓮久は体が動かなかった
「・・・なんで・・・だと」
 愚問だ。維邦は狂ったように叫んだ。
「あのじじいが死んで嬉しくない訳がない・・・すべては俺のものだ・・・俺の」
 鴛鴦の死体から衣類を剥ぎ取る、
 ドロドロとした血が、手や維邦の衣類を汚したが、維邦は全く気に留める様子がない
「どこに・・・どこに隠しやがった、あのじじい」
 必死で石を探すがどこにもない、腹立たしくなった維邦はその胴体を蹴飛ばした。
「やめて・・・やめてよぉ・・・」
 地獄に引きずりこまれたような光景に、蓮久はただ泣き伏せた。
 誰が、父を殺したのか・・・そんなことはもうどうでもいい。
 すべてを失った。父も夫も・・・それだけは確かだった。
プロフィール

風祭ともこ

Author:風祭ともこ

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